2007年2月6日

北海道知事 高橋はるみ様

大規模林道問題北海道ネットワーク
                     大雪と石狩の自然を守る会 代表 寺島一男
                     ナキウサギふぁんくらぶ  代表 市川利美
                     十勝自然保護協会     会長 安藤御史
                     (社)北海道自然保護協会 会長 佐藤 謙
                     北海道自然保護連合    代表 寺島一男

緑資源幹線林道のうち道有林部分の事業評価および公益的機能に関する質問書

 昨年8月18日づけの知事あて当ネットワークからの「北海道が多額の事業負担金を支出し道有林の森林経営に密接に関係する緑資源幹線林道の事業評価について、説明責任を回避したことに関する質問書」に対し、同年10月3日づけで知事および水産林務部林務局長から回答がありましたが、その内容はとうてい納得できるものではありません。
 なぜなら、まず第1に林務局長からの回答は、緑資源機構法の規定および国等の行政機関が行う政策評価・事業評価制度に基づき、「林野庁の事業評価は、…道として説明責任を負っているものとは考えておりません」ということに集約されますが、緑資源幹線林道の事業主体および評価主体が北海道ではなく林野庁(緑資源機構)であることは、2005年8月の第1回質問当時から当ネットワークが質問の大前提として認識していたことです。
 
 北海道は、道の負担金、賦課金の支出は、緑資源機構法第21条、第23条により強制的に徴収されるもので道の判断による支出ではないから、道に説明責任はないと主張しています。しかし、受益者に課せられる賦課金は、「その者の受ける利益を限度として」賦課徴収されるに過ぎません(第21条1項)。したがって道は受益を超えて賦課されるいわれはなく、受益を超えて支出せざるを得ないときは、不服申し立てができるものです(第21条3項)。それにもかかわらず不服申し立てをすることなく支出を継続してきたということは、北海道として林野庁の評価結果を積極的に是認してきたという他ありません。この判断について、「道民に開かれた道有林」の管理者として、道は、道民に対して説明責任を負っているのです。
 さらに緑資源機構法の規定の如何にかかわらず、この幹線林道は道有林の管理・経営と直結し、その森林施業は道有林によって企画・立案・実行されるものなので、「道民に開かれた道有林」の管理者として、道は、道民に対して説明責任を負っているのです。
 第2に知事からの回答は、緑資源幹線林道は「地理的条件が極めて悪い地域において、国道等とのネットワークを形成することにより、森林整備の推進、林業振興、地域振興を図ろうとするものであり、地元の期待も大きいことから、道として必要なもの」とのことですが、これでは何の説得力も持っておりません。
 なぜなら、この説明は、渡島でも、宗谷でも、根室でも、全道どこでも通用する抽象的な内容で、4回の質疑を通じて問題が絞られてきた日高地方で、しかも専ら「公益的機能の維持増進を図るため」に管理・経営される道有林内で、高度経済成長時代の拡大造林政策による木材の大量・長距離輸送を前提として計画・着工された大規模林道(緑資源幹線林道)の建設を延々と継続することが、なぜ必要かつ適切であるかについて、まったく説明されていないからです。
 今回の知事回答によれば、林務局長に対して「回答・説明すべき事項については、引き続き誠実に対応するようあらためて指示した」とのことですが、知事の回答には「誠実」さが感じられません。なぜなら当ネットワークの質問は、標題に「道有林の森林経営と密接に関係する緑資源幹線林道」と記されているように、道有林に係わる質問であるにもかかわらず、前記のように抽象的な内容で、道有林にひとことも言及しないようでは誠実とほど遠い内容です。知事は「隗より始めよ」を率先実行して「誠実」な回答をいただきたいと考えます。
 したがって下記のとおり改めて質問しますので、早急に明確で誠実な回答をくださるよう、要求いたします。なお、回答は、当ネットワークからの2005年12月16日および2006年4月25日の質問でも記したとおり、水産林務部長や林務局長の判断ではなく、知事政策部、環境、財政など幅広い部門を交え、道政の最高責任者も加えて総合的に検討した結果の、知事による回答を求めているものであることを申し添えます。

                    記
 <質問1> 道有林の管理・経営内容の説明責任を回避することが合理的で適切であるとする根拠について

 平取・えりも線のうち、様似・えりも区間は受益地の100%が道有林なので、そこで行われる森林施業は、必然的に専ら道有林の管理・経営内容によって左右される。
 平取・えりも線は『北海道の緑資源幹線林道』(緑資源機構北海道地方建設部、2004)によれば事業期間が昭和58(1983)年から平成27(2015)年度までとされており、その事業開始当時の道有林の管理・経営方針は木材生産が主要な地位を占めていたが、事業途上の平成14(2002)年に、道有林は「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止」し、「公益性を全面的に重視する」経営方針に大転換した。
 ところが、林野庁の「期中委員会」が行った事業評価によれば、様似・えりも区間では「今後、事業量が増加する見込み」との前提に立ち、受益地内で約70億円の木材生産等便益が見込まれるのを始め、合計82億円の便益(B)があるとされ、それに対し建設費用は約72億円(C)なので、投資効果がある(B/C=1.14)とされている。しかし「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止」した道有林の経営として、約70億円の木材生産等便益(これは木材売上代でなく輸送費減など)が出るという数値は、道民の常識として信じられないという疑問が起こるのが当然である。
 また様似・えりも区間では約7億6千万円の森林整備費縮減等便益が出ることになっている。それに対し隣接する様似区間の「あり方委員会」が行った事業評価によれば、様似区間では様似・えりも区間の約10倍に当たる約73億円の森林整備費縮減等便益が出ることになっている。様似・えりも区間と様似区間は、受益面積、林道延長、造林地率がほぼ同様規模の隣接地であるのに、後者は前者の約10倍の森林整備費縮減等便益が出ることは、これまた道民の常識として信じられないという疑問が起こるのが当然である。
 しかしながら北海道はこれら林野庁による評価結果を是とし、事業負担金および賦課金の支出を決定した。
 したがって緑資源幹線林道は緑資源機構法第〇条が云々、国等の行政機関が行う政策評価・事業評価制度が云々というような、事業主体や法制度の如何にかかわらず、道有林の管理・経営と直結する森林施業方法および北海道費の支出にかかわる内容について、道民から質問されたのに対し、「林野庁の事業評価は、…道として説明責任を負っているものとは考えておりません」と説明責任を回避することが、「道民全体に支えられた森林の整備・管理の推進」を旨とする道有林で、かつ「道は、森林づくりに対する道民の理解を促進するため、情報の提供、…その他の必要な措置を講ずるものとする」(北海道森林づくり条例第14条)とする北海道政として、合理的で適切であるとする根拠を明示すること。

 <質問2> 道有林の管理・経営内容に関する事項が「道が自らの裁量で行う企画・立案に該当しない」とする根拠について

 10月6日づけ回答によれば、「林野庁の事業評価は、たとえ受益範囲のすべてが道有林であっても、道が自らの裁量の中で行う道有林の企画・立案事項には該当せず、…『北海道森林づくり条例』に言う『情報』の提供とも性格を異にするもの」とのことである。
 しかし林野庁による事業評価は、受益地である道有林では「今後、事業量が増大する見込み」で「約70億円の木材生産便益が生まれる」と評価したものであり、これに相当する森林施業、すなわち「今後、事業量が増大するか、否か」「約70億円の木材生産便益が生まれるか、否か」の具体的内容は、専ら道有林が自らの裁量の中で企画・立案・実行する管理・経営内容の如何に係わっていることは明白である。
 @それにもかかわらず、それは「道が自らの裁量で行う道有林の企画・立案に該当しない」というのであるから、なぜ道有林内で道有林当局によって行われる森林施業の内容が、それに該当しないのか根拠を明確に説明すること。
 なお「北海道森林づくり条例」は、その前文冒頭の「我が国の森林面積のおよそ4分の1を占める北海道の森林は…」という文面から明らかなように、北海道の森林のすべてを対象にしており、とくに今回の質問は明らかに道有林に直結する事項である。したがって同条例第14条にいう「情報の提供」を含む「道民の理解の促進」は、北海道の当然の責務であることが明白である。
 Aそれにもかかわらず、この場合に道有林内で行われる森林施業は、「『北海道森林づくり条例』に言う『情報』の提供とも性格を異にする」というのだから、なぜ、この場合は「道民の理解の促進」を行わなくてもよいのか、その根拠を明確に説明すること。

 <質問3> 森林の公益的機能の維持増進を果たすため大規模な幹線林道が必要であるとする根拠について

 平取・えりも線のうち、様似・えりも区間は延長14.1km、受益地4600haの全域が道有林であり、また様似区間は延長14.4km、受益地4500haの62%が道有林とされている。
 緑資源幹線林道は、高度経済成長時代の拡大造林政策の継続を前提とする大規模林道として計画・着工され、その後の事業再評価で、一部の区間では路線の変更や幅員の縮小が行われたものの、基本的には拡大造林政策当時の、林産物の大量・長距離輸送を前提とするものであることには変わりがない。
 しかしながら、現在の道有林管理・経営は、専ら「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営を行う」(北海道森林づくり条例第20条)ことに大転換した。そして、「道有林基本計画」では林道網について、「幹線となる林道の基盤整備は終了したため、今後は、既設路線を効率的に維持し、有効に活用するほか、効率性や環境負荷を十分考慮して、更新および間伐に必要な支派線を開設する」こととしている。
 また林野庁の期中評価委員会に対する様似・えりも区間の北海道意見書(平成15・11・19)では、「崖崩れ、大雨、高波などの災害時には、国道336号の通行止めによる孤立が 、通院、通学、救急医療…、など住民の生活をしばしば脅かしており、様似・えりも区間の整備は、災害時の代替道として、常に通行止めの不安にさらされている地元住民の期待が大きいことから、道としても必要と考えております」と、国道の代替機能を必要性の第1の理由に挙げ、森林施業の必要性については、「また、受益地の全体を占める道有林は…」と二の次にしている。
 すなわち北海道は、当該地域の道有林管理・経営の観点からは、大規模な幹線林道を必要としないことを自ら公的に表明しているのである。また森林の公益的機能の維持増進のためには、林産物の大量・遠距離輸送を前提とする大規模な幹線林道の整備よりも、支派線路網を充実させ、きめの細かい施業を行うことの方が重要であることは明白である。
 それにもかかわらず北海道は、緑資源幹線林道建設を促進し、道費の支出を行っているのだから、@様似・えりも区間および様似区間の緑資源幹線林道の整備は、当該道有林の、どのような公益的機能を維持増進するために必要で、緑資源幹線林道が整備されることによりどの公益的機能がどれだけ維持増進されるのか、Aまた緑資源幹線林道の代わりに、道有林基本計画に従って「既設路線を効率的に維持し、有効に活用するほか、効率性や環境負荷を十分考慮して、更新および間伐に必要な支派線を開設」したのでは、なぜ、その公益的機能を維持増進させることができないのか、明確で具体的な説明をすること。

 <質問4> 緑資源幹線林道の必要性の第1の理由が森林施業でなく地域住民の生活の利便性となっていることの合理的根拠について

 質問3に記した北海道意見書(平成15・11・19)によれば、様似・えりも区間の緑資源幹線林道を必要とする第1の理由として、森林施業の必要性ではなく、「えりも町目黒地区は、国道336号線の中間付近に位置し、崖崩れ、大雨、高波などの災害時には、国道336号の通行止めによる孤立」が生じ、目黒地区の住民が、えりも本町方面への通勤・通学・救急などの生活上の不安にさらされるので、災害時の代替道路として必要であることを挙げている。
 ところが北海道意見書が提出された後の客観情勢の変化として、第1に目黒〜庶野を連絡する町道および広域基幹林道が貫通してバイパスが可能となり、第2に国道336号の目黒〜庶野間の防災工事としてタニイソトンネルの完成、崖地の覆道工事などが進展し、現在では目黒地区が孤立する不安はほとんど解消されている。
 一方、様似・えりも区間の緑資源幹線林道による代替道路としての役割は、バイパスする距離の長さ、山越え地形の急勾配、冬期間の不通などから見て、前記の国道336号(改 良整備済み)や広域基幹林道経由に比べ、優位性があるとは到底いえない。さらに緑資源幹線林道の進捗率の実績からみれば、当初予定の平成27年度完成はもはや絶望的で、いつ完成するか見込みも立たないのが実情といえる。
 また、北海道の財政事情は、道職員の給与を10%カットしなければならないほど逼迫した危機的状況に陥っていることは衆知の事実であり、無駄な公共事業から撤退することは焦眉の急となっている。
 林道は幹線であれ支線であれ、森林施業の必要性を第1として整備すべきものであり、森林施業の必要性を満たしたうえで副次的に地域住民のニーズに応えることは望ましいことであるが、地域住民のニーズを第1の理由として林道を建設することは、明らかに本末転倒である。しかも客観情勢の変化によりそのニーズが低下し、また、いつ完成するとも見込みのつかない緑資源幹線林道は、無駄な公共事業の典型といわざるを得ない。
 それにもかかわらず北海道は、その事業に巨額の道費支出を継続しているのだから、危機的財政状況に陥っている実情の中で、この事業から撤退せず(林野庁に対し事業中止の意見具申などをせず)、高度経済成長時代の、とっくに過去のものとなり結果的に失敗に帰した拡大造林政策の継続を前提として計画・着工された大規模林道(緑資源幹線林道)を、延々と継続することが、合理的で適切な道政の執行であるとする根拠を明確に説明すること。

 <質問5> 平取・えりも線に係る道有林の受益の支出根拠、内容および金額について

 北海道は、平成17年度、緑資源幹線林道に対し総額2億4000万円の事業負担金および受益者賦課金を支出している。平成17年度までの負担金および賦課金の累計は64億3700万円で、平成18年度以降の負担金と賦課金の合計額は106億6900万円が見込まれ、総額170億円を超える道の負担金が課せられることになる。
 平取・えりも線では、新冠・静内区間、様似区間、様似・えりも区間が道有林に関係しており、例えば様似・えりも区間の負担金及び賦課金の累計は1億5800万円となっている。各区間毎の賦課金の金額は承知していないが、前述のように受益者に課せられた賦課金は、そのものの受ける利益を限度として賦課徴収されるに過ぎない(緑資源機構法21条1項)こと。また、賦課金は受益を超えて支出せざるを得ないようなときは、不服申し立てをできることになっている(同21条3項)。
 これらの条文が示すように賦課金の負担に当たって、道はそれが受益を超えているか否かなど、その算出根拠・内容を含めて道としての判断が必要である。その判断をなくして賦課金の適切な執行はあり得ない。そこで、平取・えりも線の様似・えりも区間が完成することによる北海道の受益はどのような内容で、金額はいくらか具体的に説明すること。

 <質問6> 迂回を避けることによる森林整備コスト削減の内容について

 北海道は前記意見書(平成15・11・19)において、様似・えりも区間が必要である2番目の理由として、「受益地内の既設林道は様似町側とえりも町側が連絡されていない状況にあり、このため、大きく迂回することを強いられております。大規模林業圏開発林道『様似・えりも区間』の整備による既存路網との連絡は、森林整備コストの低減や森林災害への迅速な対応、きめ細かな森林調査の効率的・効果的な実施など森林の整備・管理を行う上で必要なものであり、公益性を全面的に重視する道有林の整備・管理に大きく寄与するもの」としている。
 すなわち道有林の整備・管理を効率的に行うため必要であるとするが、@遠回りを解消することにより、いったいどれだけの時間とコストが低減されるのか。例えば浦河にある日高森作りセンターから猿留川上流部へ行く際に短縮される時間はどの程度で、それにより削減されるコストはいくらか。Aそのことが森林の公益性の増進に資するというなら、その評価額はいくらか具体的に説明すること。

 <質問7> きれいな水と空気と野生生物のすみかである森林の公益性維持を犠牲にして、コストの削減や効率性を求めることが、道有林の基本に反せず合理的で適正であるとする根拠について

 北海道は前記意見書(平成15・11・19)において、緑資源幹線林道の建設はコストの低減や効率性が向上し、「公益性を全面的に重視する道有林の整備・管理に大きく寄与するもの」と強調している。
 ところで森林の公益性について、北海道森林づくり条例前文は「生命の源となる清らかな水をたくわえ、野生生物の生息の場となるとともに、二酸化炭素を吸収し酸素を供給するなどの重要な役割を果たす」と記述している。
 また、平成14年度『北海道森林づくり白書』では、公益性を全面的に重視した道有林基本計画における森林施業の基本方針について、「森林施業を行う際には、渓流への影響など森林環境の変化を最小限に止めるよう施業方法や時期を考慮するとともに、野生生物の棲みかとなる枯損木・空洞木や木の実などの食料を供給する食餌木を残置するなど、野生生物への配慮にも努めます」と説明している。
 ところが、緑資源幹線林道の様似・えりも区間の建設は、日高山脈南部の主稜線を越えるため、オピラルカオマップ川や猿留川とその支流上流部において巨大な人工物を構築し、河川環境に大きな影響を与えるのみならず、急斜面の森林を大々的に伐採して長大のり面を出現させるなど、大きな環境負荷を与えて自然破壊をもたらすことは不可避である。さらに後述するように、希少猛禽類をはじめとする野生生物の生息環境を悪化させ、生態系に重大な影響を与えることになる。これらは北海道森林づくり条例前文の「公益性」を損ない、道有林基本計画に記した「渓流への影響など森林環境の変化を最小限に止める」ことや「野生生物への配慮にも努めます」という基本に反することが明白である。
 すなわち様似・えりも区間の建設は、森林整備コストなどを低減する一方で、道民の貴重な財産である道有林の公益的機能を大きく侵害する結果をもたらすのである。
 したがって、北海道として、@森林の公益的機能を侵害してまで、森林整備のコスト低減や効率性を求めることが、なぜ道有林の管理・経営の基本に反していないのか、Aまた北海道環境基本条例や北海道森林づくり条例に定める基本理念や北海道の責務などに照らして、なぜ合理的で適切な道政の執行といえるのか、その根拠を明確に説明すること。

 <質問8> シマフクロウ、クマタカ、オオタカなどの猛禽類、絶滅危惧種のコウモリ、ナキウサギなど、希少な野生生物に対する現状認識と保全対策について

 様似・えりも区間の沿線は全域が道有林であり、そこにはシマフクロウなどの希少猛禽類(多くは種の保存法による国内希少種)の存在とナキウサギの大生息地があることから、建設を一時中止したが、ナキウサギ生息地を回避するように路線を変更することによって、工事を再開した経緯がある。
 このように、この道有林地域は野生生物の貴重な生息地であり森林の「公益的機能」の重要な構成要素となっているから、「道は、道有林野について、公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営を行う」(北海道森林づくり条例第20条)ことを任務とする道有林管理者としては、これらの野生生物の保護・保全について、高度な義務を負っていることになる。
 しかし、前記の北海道意見書(平成15・11・19)は、その末尾において、「整備にあたっては、…環境調査などの結果を踏まえ、自然環境の保全を図りながら、当区間の整備についてご検討いただきますよう要望します」と、自然環境の保全についての検討を要望するにとどまっており、まるで他人事のような態度である。
 以下では、緑資源機構によるモニタリング結果および私たちの独自の環境調査結果を示しながら、これらの野生生物の現状について、北海道としてどのように認識し、どのような対策を講じているのか、すなわち「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営」が実行されているか否かについて、回答・説明を求めるものである。

  (1)シマフクロウ(種の保存法による国内希少種)
 シマフクロウは、道内のごく限られた地域に120羽程度しか生息していないとされる希少種であるが、平成12年、えりも町道有林内において「繁殖」が確認されていた。
 工事を再開しモニタリングを開始した後は、平成14年度に番が確認され、平成15年度に番、鳴き交わし、飛翔、パーチなどが複数回で、2個体が確認された。平成16年度にも番の鳴き交わしが確認され目撃もされている。しかし「繁殖」はいっさい確認されていない(日本森林技術協会「(平成15・16・17年度)平取・えりも線 様似・えりも区間 猛禽類モニタリング調査報告書」)。
 平成13年度以降「繁殖」が確認されなくなったのは、もっぱら工事開始による影響であると推測される。
 このようにシマフクロウの繁殖が脅かされ、森林の公益的機能が損われる事態が現実に進行していることに対して、@北海道は、自らどのような実態調査を行ったのか、行わなかったのか。 Aまた事業主体の緑資源機構に対して工事方法の改善ないし工事中止の申し入れ・要請を、どのような形で行ったのか、行わなかったのか。道有林の「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営」を任務とする北海道が、種の保存法により国内希少種に定められたシマフクロウに対して講じた環境保全対策について、具体的に説明すること。

  (2)クマタカ(種の保存法による国内希少種)
 クマタカは、えりも町道有林内において、過去においても一年を通じて数多く確認されており、平成14年度と16年度には、全ての調査時に各1〜4回確認されている。また、平成10年度と16年度には「繁殖」している。このうち平成16年度は、5月に巣内で雛が確認されたが、その巣は直径1.8m、厚さ1.5mと、クマタカとしてはかなり大きいものであり、雛は7月下旬に巣立った。その年、成鳥、幼鳥の飛翔、パーチが数多く確認された。平成17年には、飛翔、パーチが14回確認されている(日本森林技術協会「(平成15・16・17年度)平取・えりも線 様似・えりも区間 猛禽類モニタリング調査報告書」)。
 近年の全国的な調査結果を総合すると、クマタカの全国における生息数(最小個体数)は約1800羽とされているが、繁殖成功率は全国的に低下傾向にあるため、将来における個体数の急激な減少が危惧されている。
 そうした中で、平成10年と16年に繁殖が確認されたことは、当該道有林一帯をクマタカの採餌・繁殖活動を含む生息域として、適切に保全する意義がきわめて大きいことを示している。したがって「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営を行う」ことを任務とする道有林管理者として、北海道はクマタカの保護・保全のため、どのような調査を行い、いかなる保全対策を講じたのか、具体的に説明すること。

  (3)その他の猛禽類およびクマゲラ、コウモリ、ナキウサギ

 前記の「(平成15・16・17年度)平取・えりも線 様似・えりも区間 猛禽類モニタリング調査報告書」によると、様似町、えりも町におけるシマフクロウ、クマタカ以外の猛禽類の生息状況は、年度により変動幅があるものの、飛翔、パーチの目撃が、オジロワシ(国内希少種)、オオワシ(国内希少種)では数回から100回前後、オオタカ(国内希少種)、ハイタカ(環境省・準絶滅危惧種)、ハヤブサ(環境省・絶滅危惧U類)では数回から十数回程度の頻度で、それぞれ確認されている。
 このほか、私たちの調査によってクマゲラ(環境省・絶滅危惧U類)の飛翔、採餌痕も数多く確認されている。
 さらに環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種とされているコウモリ6種の生息が、コウモリの専門家によって確認され(このうち4種は日高山脈から初記録)、また繁殖も確認されている(柳川久他「北海道十勝・日高地方の翼手類相(V)えりも町猿留川上流部における捕獲記録」2004)。
 ちなみに緑資源機構も、この指摘を受けて平成17年度にコウモリ調査を行ったが、種の同定を伴わないバットディデクターによる方法なので、絶滅危惧種か否かのチェックができず、環境アセスメントとしてはきわめて不十分である。コウモリ類は種によって生息環境が、例えば樹洞、枯木の樹皮の隙間、洞窟などと異なり、また生態も異なるので、多様な種のコウモリが同一地域に生息することは、豊かな生態系に恵まれた森林環境の証でもある。ところが上記絶滅危惧種のコウモリの生息が確認された地点の一つは、すでに緑資源幹線林道の大規模工事により、自然環境が大きく改変され、およそコウモリの生息は不可能な環境に変貌してしまった。すなわち公益的機能の重要な構成要素が損われたのである。
 また緑資源幹線林道予定ルート沿いにはナキウサギ生息地があり、現在も緑資源機構および私たちは調査を継続している。ところが緑資源機構の調査によれば生息していないと結論づけられた複数の地点で、私たちは生息を確認している。この一帯のナキウサギ生息地は、一般的なナキウサギ生息地よりも低標高に存在するばかりでなく、分布の南限に位置し、氷河期からの遺存種としての進化の過程や生態を解明する上でも、重要な生息地である。それにもかかわらず環境アセスメントの対象とされない(緑資源機構が生息していないと結論づけている)生息地は、緑資源幹線林道の工事により破壊され、回復不可能となる恐れがきわめて大きい。すなわち公益的機能の重要な構成要素が損われようとしているのである。

 以上、国内希少種や絶滅危惧種を含むシマフクロウ、クマタカなどの猛禽類・クマゲラ・6種のコウモリ、学術的に重要な希少種であるナキウサギなどの野生生物の生息状況だけを見ても、この一帯の道有林の生態系が非常に豊かで、「道有林野について、公益的機能の維持増進を図るため」(北海道森林づくり条例第20条)きわめて重要な地域であることが分かる。
 これらの希少種などを保全するためには、例えば、ただ単に営巣木を保護するなど個別の対応策では不十分であり、その種ごとの生態と生息環境を念入りに調査した上で、その保全対策をとる必要がある。とくに猛禽類は生態系における食物連鎖の頂点に位置し、とりわけシマフクロウやクマタカのような留鳥が長期にわたり、安定的に生存を維持するためには、豊富な餌動物が持続的に供給される食物連鎖系が形成されることが肝要で、微生物から微小な動植物〜中位の動植物〜大型の動植物に至る、森林や河川環境を含む生物多様性に富む生態系が損われずに、トータルで保全されることが必要である。
 しかし現実には、例えば、すでに指摘したように絶滅危惧種のコウモリの生息環境が、何の環境調査も保全対策も講じられぬまま、緑資源幹線林道の工事により破壊される事態が進行している。
 したがって道有林の「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営を行う」ことを任務とする北海道は、
 @この地域で公益的機能の重要な構成要素をなす、これらの猛禽類、クマゲラ、多種多様なコウモリ、ナキウサギなど希少野生動植物について、独自にどのような調査を行い、保全対策を講じているのか、
 Aこれらの野生生物が生息する、他に類例の少ない豊かな森林生態系を損わずにトータルで保全し、そのまま後世に引き継ぐことは、「公益的機能の維持増進を図るため、計画的かつ適切な管理運営を行う」べき道有林の当然の義務であると考えられるが、どのように認識しているのか、
 B先に指摘したようにコウモリやナキウサギの生息地の一部は、緑資源機構の不十分な調査のため何の対策も講じられぬまま、緑資源幹線林道工事により、すでに失われたり、失われようとしており、それは前記北海道意見書(平成15・11・19)の「整備にあたっては、…自然環境の保全を図りながら」という要望に相反する事態が現実に進行していることになるが、北海道としては林野庁あるいは緑資源機構に対し、どのような抗議ないし申し入れを行ったのか、行わなかったのか、
 以上について、具体的で明確な回答・説明を行うこと。 

                                    (以上)