2007年1月23日

環境省自然環境局長  冨岡 悟  様 
国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会各委員 様

                              (社)北海道自然保護協会
  会長  佐藤 謙


国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討についての要望書

 このたび環境省では標記検討会を発足させ、検討会各委員が中心となり、「国立・国定公園の今日的な役割を踏まえ、指定区域はどうあるべきか」「国立公園の管理運営はどうあるべきか」などについて、総合的な視野から熱心な検討を開始されたことは、まことに時機を得たことで、その成果が期待されるところであります。
 その検討状況の概要は、環境省のホームページで知り得た部分だけでも多岐にわたる基本的課題に及んでおり、とくに「地域制公園」に由来する「多様な主体の参画による計画策定と管理運営」に大きな比重がかけられているように見受けられます。そのことは日本の国立・国定公園内に民有地が多く介在する実態などを踏まえた平均像が反映されたもので、至当のことと思われます。
 しかし国立・国定公園の重要な使命である自然保護・生物多様性保護を重視する視点から見ると、まだこの検討会では論議されていないが、あるいは関係者の間で意識されることが必ずしも多くはないが、見過ごしてはならない重要事項として、林野庁所管の国有林とどう協調することが可能なのかを検討することが挙げられると考えます。

 日本の国立・国定公園のうち、とくに北海道・東北および中部地方には大雪山の95%、十和田八幡平の93%を始め、国有林率が80%以上と高く、また植生自然度9・10(自然林・自然草原)の包含率が80%以上で原始的な自然環境を広く含む、自然保護・生物多様性保護を重視すべき山岳性自然公園が多く存在しております(説明1参照)。
 林野庁所管の国有林の管理運営は、従来は木材生産に主体が置かれ、国立・国定公園の指定や特別地域などの地種区分の決定にも、木材生産機能との調整が色濃く反映されてきました。しかし近年の国有林は公益的機能を重視する「国民の森林」に抜本改革されました(説明2・3参照)。したがって今後は、国有林当局の特段の理解と協力を得て、国立・国定公園内の国有林の管理経営方針を、国立・国定公園の管理運営目的と一致させることができれば、これらの公園は「地域制公園」でありながら、その80%以上の広大な範囲が事実上の「営造物公園」として機能する潜在的可能性を有していることになります。現にその先駆的な事例は、知床国立公園における環境省と林野庁の密接な協調に見ることができます(説明4参照)。
 そして、そのことは、日本の国立公園の多くがIUCNによる自然保護地域カテゴリーX型(景観保護地域)に位置づけられている中で、事実上のU型(国立公園)として「指定目的に反する開発や居住を排除する」ことに近づく、質の高い公園指定や管理運営を実現できる可能性にも連なるのです(説明5・6参照)。
 また日本の国土の土地利用の現状から見て、21世紀に多くの国立・国定公園を新規指定することがきわめて困難な実情にあることを踏まえると、21世紀は量的確保よりも質的確保、すなわち自然保護・生物多様性保護に大きく貢献できる国立・国定公園を充実させることが、とりわけ重要と考えられます。
 したがって環境省および検討委員会では、別記説明資料を参照しながら、下記の2点についての検討・論議を進められるよう強く要望いたします。
                  記
1 国有林率が高く原始的環境を広く含む国立公園では、国有林当局の特段の理解と協力を得ながら、IUCNのカテゴリーU型の「公園の指定目的に反する開発や居住を排除する」方向に近づくように自然保護を強化し、生物多様性保護にも大きく貢献できるような努力を重ねること。
2 新規の国立公園指定に当たっては、国有林率が高く原始的環境を保持している地域を候補地として選定する視点を加え、例えば北海道では「日高山脈と夕張山地」を新規の国立公園候補地としてとりあげること(説明7参照)。

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       別記説明資料 <検討・論議に際しての参考事項>

1 国立・国定公園内の国有地率と自然植生含有率の現状
 国立・国定公園の土地所有別面積割合と植生自然度構成比は、別紙資料1のとおりである。すなわち国立公園の土地所有では、利尻礼文サロベツ、知床、阿寒、大雪山、支笏洞爺、十和田八幡平、磐梯朝日、小笠原、中部山岳の80%以上、国定公園の土地所有では、網走、日高山脈襟裳、下北半島、津軽、早池峰、栗駒の80%以上が国有地であり、この大部分は林野庁所管の国有林である。なおこれを60%以上で見れば、上信越高原、白山、霧島屋久、蔵王、鳥海、越後三山只見、水郷筑波の国立・国定公園が加わる。
 また植生自然度9・10(自然林・自然草原)の含有率が80%以上の国立公園は、知床、釧路湿原、中部山岳、大雪山、南アルプス、白山、十和田八幡平、小笠原であり、国定公園では、日高山脈襟裳、ニセコ積丹小樽海岸、越後三山只見である。なおこれを60%以上で見れば、西表、支笏洞爺、磐梯朝日、利尻礼文サロベツ、阿寒、越後三山只見、奄美群島、栗駒、大沼の国立・国定公園が加わる。(この順序は北から南へではなく資料1の記載順による)
 以上のように、とくに北海道・東北・中部の山岳地方では、国有地率が高く、かつ自然植生含有率の高い原始的自然環境を広く包含する国立・国定公園が多く存在する。
 なお、これに公有地(北海道の場合は道有林が多く、道有林では後記するように木材生産を目的とする森林施業を廃止した)を加えると、例えば大雪山では99%、日高山脈襟裳では98%が国・公有地となり、いっそう「営造物公園」として機能させる潜在的可能性が高くなる。

2 国立・国定公園の地種区分と国有林経営との調整経緯
 国立・国定公園内の森林施業の制限については昭和34年(1959)、厚生省と林野庁の間で交わされた「自然公園区域内における森林の施業について」の覚書きに基づき、特別保護地区、特別地域(第1種〜第3種)の地種区分ごとに伐採方法が定められている。
 ところで大部分の国立・国定公園の地種区分が定められたのは昭和30年代〜40年代であるが、その当時の国有林は自然林を皆伐して人工林に転換する「拡大造林政策」が積極的に進められていたので、地種区分決定の調整は、その影響を強く受けたものとなった。
 すなわち当時の国有林の森林施業区分は木材生産を主眼として、皆伐施業地(拡大造林対象地および見込み地)、択伐施業地(拡大造林不適地)、更新困難地(風衝地・急傾斜地など)、除地(湿原・高山帯など)に大別されており、たとえ国立公園側が、どれほど森林景観や動植物の生息・生育環境を高く評価しても、そこが拡大造林対象地ないし見込み地であれば、皆伐施業地=第3種特別地域とならざるを得なかった。それ以外の地種区分も、択伐施業地=第2種特別地域、更新困難地(すなわち林業が困難な土地)=第1種特別地域、除地(すなわち林業的に価値のない土地)=特別保護地区というように、木材生産の都合に合わせて調整・区分されたのが実態であった。
 その後、拡大造林政策は各種の弊害が顕在化したため昭和40年代後半(1970年代)以降は中止され、皆伐面積を縮小するなど「国有林における新たな森林施業」に転換した。また国立公園行政も昭和46年(1971)に新設された環境庁へ移管し、それ以降は公園計画の「見直し」作業が進められたが、現行の地種区分の大枠は、拡大造林政策当時に決められたものから大きくは脱していない。
 すなわち現行の地種区分は、木材生産重視時代の価値観に沿って決められたもので、森林生態系保護や生物多様性保護の観点からは不十分な地種区分といわざるを得ない。なお森林施業の観点から第3種特別地域と位置づけられた部分では、森林施業以外の開発行為に対する許認可基準も甘くなり、自然環境が蝕まれる結果を招いている傾向がある。

3 木材生産重視から公益的機能重視に抜本改革された国有林の経営
 国有林経営は独立採算の特別会計制度に立脚していたが、昭和50年代以降は林業経営の低迷により累積赤字を重ねるようになり、平成10年(1998)には3兆8千億円に達した。そのため国有林の経営は、累積赤字の大部分を一般会計から返済するとともに、経営方針・会計方式を改め、営林局を森林管理局とするなど組織・機構も抜本的に改革された。
 『林業白書』(平成11年版)はこの抜本改革を、「国民の共通財産として、国民参加により、国民のために」管理経営し、名実ともに「国民の森林」とするため、木材生産より「公益的機能の発揮に重点を置いた管理経営へと転換する」とともに、「公益林の管理や整備についての必要な経費について、一般会計から繰り入れることを前提とした特別会計制度に移行する」と解説している。それまでの「国有林における新たな森林施業」以降の木材生産林と公益林の比率は54:46だったが、この抜本改革後は20:80と逆転し(現在は10:90とさらに木材生産林の比率が縮小)、公益林が大幅に拡大した。
 したがって国立・国定公園内の国有林が、「国民の共通財産として、国民参加により、国民のために」管理経営し、名実ともに「国民の森林」として「公益的機能の発揮に重点を置いた管理経営」に転換するとすれば、国有林の管理経営方針を国立・国定公園の管理目的に一致させ、「公園指定目的に反する開発や居住を排除する」方向に公園計画を見直し、自然保護を強化することが望まれるのは当然である。
 現行の国立・国定公園計画は、まだその転換が行われていないが、今後は国有林当局の特段の理解と協力を得て、自然保護強化に努めることが大きな課題である。
 またその一環として、例えば、現在は人工造林地であっても、将来は針広混交林へ誘導するような森林施業を試みることも重要である。ちなみに国有林ではないが近年の北海道有林(約61万ha)は、自然公園に限らず全域で、木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止し(資源の循環利用林に区分された森林はない)、専ら公益的機能を発揮する森林経営に転換し、人工造林地も、二段林→連続的な複層林→針広混交林へ誘導する施業が導入されている(別紙資料2参照)。国立・国定公園内の国有林経営は、北海道有林の経営方針を参考に、木材生産を目的とする資源の循環利用林を廃止するなど、生物多様性保護など公益的機能の発揮に大きく寄与する森林施業へ転換することが望まれる。

4 知床国立公園では環境省と林野庁が協調して自然保護強化を実現
 知床国立公園は昭和39年(1964)の指定であるが、指定と同時に地種区分などの公園計画も決定された。その地種区分には2で前記した拡大造林政策を反映し、第3種特別地域も介在しているが、国有林当局は昭和60年代(1980年代後半)、その第2種・第3種特別地域内での森林伐採を計画した。それは行政的には許容される施業であったが、伐採に反対する強力な自然保護運動が起こり、「原始的国立公園内では木材生産より自然保護を重視すべき」という考え方は国民的な共感を得て、伐採は事実上中止されるに至った。
 この知床森林伐採問題および白神山地の青秋林道問題を契機に、林野庁では木材生産を目的としない「森林生態系保護地域」制度を新設し、知床および白神山地を第1号の指定地とした。奇しくもそれは現在、ともに世界自然遺産登録地に発展しているが、そのことは「国民の共通財産として、国民参加により、国民のために」「公益的機能の発揮に重点を置いた管理経営へと転換」した国有林としては、今後に生かすべき貴重な教訓となっている。
 知床の世界遺産登録に先立って立案された「知床世界自然遺産候補地管理計画」は、環境省および林野庁が中心となって二人三脚を組み、文化庁と北海道も加わり、多くの地元関係者などの意見が反映されてまとめられたが、民有地の多くが「知床百平方b運動」の対象地となっていることも幸いして、「地域制公園」でありながら事実上は全域(海面を除く)が特別保護地区および第1種特別地域に相当するような「営造物公園」として機能しつつある。
 もちろん世界自然遺産登録地としての知床の今後の管理運営には、解決すべき多くの困難な課題が山積しているが、知床の事例は、環境省および林野庁が協調すれば、「地域制公園」でありながら事実上の「営造物公園」として機能させることが可能であることを立証している。
 知床の事例が広く国民に知られるようになれば、今後は、知床で可能であったものが、なぜ大雪山(国有林率95%)や十和田八幡平(国有林率93%)ではできないのか、国有林率の高い国立・国定公園では、「地域制公園」でありながら事実上の「営造物公園」として機能するように誘導すべきという国民的な世論が高まることは必至と思われる。今回の検討会の委員各位は、そうした国民の要望を先取りし、実現に向けて努力することも重要な責務であるといえよう。

5 自然保護重視型とレク利用重視型へ「分化」することは50年前からの課題
 今から50年も前に刊行された『国立公園・現況と将来』(厚生省国立公園部監修・国立公園協会編、1955)には、国立公園計画の基本方針として、「阿寒、大雪山、十和田、中部山岳などのように原始的景観の地域を広く含む公園では、自然保護に重点が置かれるべきであり、富士箱根伊豆の箱根のように比較的開発された地域においては、風致の維持および育成を図りつつ、利用に重点を置くなど、計画策定上の重点が基本的に明らかにされなければならない」と記されている。
 また国立公園体系について、「今後の問題は、…景観上、利用上かなり性格の異なったものを広く包含している現在の国立公園を更に分化していくことである。これは既存の国立公園を一本に扱い、国の自然公園として一つの基準をもって律していくことが、その適切な運営上不適切なことが認められるからである。…国立公園として一つの枠の中にあるものも、原始景観を特徴とするもの、特異な自然科学的景観をもつもの、歴史的な価値が高いもの、非常に高い利用性をもつものなど、主としてその景観の質によって分類することが考えられる」と記されている。
 すなわち50年も前の時点で、「既存の国立公園を一本に扱い、国の自然公園として一つの基準をもって律していくことが、その適切な運営上不適切なことが認められる」と指摘されていたのである。しかし、なぜか国立公園の「分化」は実現を見なかった。
 また昭和62〜63年(1987〜88)には折からのリゾート法の制定を受け、「自然公園の利用のあり方」が自然環境保全審議会の小委員会で検討され、自然公園を、@野生体験型、A自然探勝型、B風景観賞型、C風景地保養型に類型区分することが提案されたが、その後はバブル経済の崩壊にともなってリゾート開発が失速したためか、この施策も具現化しなかった。
 以上のように国立・国定公園は、それぞれの公園が自然的・社会的特性を異にする個性をもっているので、何らかの「分化」や「類型化」が必要との認識は、永年にわたる懸案とされてきたのである。
 したがって前記1〜4に記したような観点から、国有林率の高い公園では自然保護・生物多様性保護に貢献できるよう、何らかの「分化」「類型化」を行い、それに従った公園計画、公園管理を目ざすことは、きわめて意義が深いことといえる。
 
6 IUCNによる自然保護地域の類型区分
 IUCN(国際自然保護連合)では、世界各国の多様な自然保護地域を統一的に把握できるように、自然保護地域をいくつかのカテゴリーに分けて類型化しているが、現行のカテゴリーでは、T:厳正自然保護管理地域/原生自然保護地域、U:国立公園、V:天然記念物、W:生息地と種の管理地域、X:陸域と海域の景観保護地域、Y:自然資源の管理保護地域の6類型に大別している。
 このうちU型の国立公園の定義は、「(a)現在と将来の世代に一つ以上の生態系を完全な状態で保護する、(b)その地域の指定目的に反する開発や居住を排除する、(c)環境と文化に調和した、精神的、科学的、教育的活動とレクリエーションと観光客のための機会の基盤を提供する」となっている。
 これは「公園の指定目的に反する開発や居住を排除する」ことが可能な、アメリカ型の「営造物公園」を想定した定義といえるが、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、アフリカ諸国や北欧諸国など、多くの国の国立公園は、U型に合致する実態を備えている。
 その一方、X型の陸域と海域の景観保護地域の定義は、「陸地や適切であれば海岸と海洋を伴い、永年にわたる人と自然の相互関係がその地域に重要な美的、生態的あるいは文化的価値、時には高い生物多様性などの明瞭な特徴を作り出してきた地域。このような伝統的な人と自然の相互関係が保全されることが地域の保護、維持、発展のためにきわめて大切な地域」となっている。
 これは日本やイギリスの国立公園のように、国有地ばかりでなく民有地も含み、古くから人々の生活の場となっている場所を含む「地域制公園」も想定した定義といえる。
 IUCNでは数年ごとに各国の「国立公園・自然保護地域の国連リスト」を公表しているが、日本の国立公園の多くはU型の国立公園ではなく、X型の景観保護地域に区分されている。日本の多くの国立公園の実態は「永年にわたる人と自然の相互関係」が築かれてきた民有地などを含むから、X型に区分されるのは止むを得ないであろう。
 ただし日本の国立公園に対する国連リストの類型区分は、版により相違があり、また2003年版では、知床や大雪山がX型であるのに対し瀬戸内海がU型に区分されているなど、明らかな矛盾があり、その判断は信頼のおけるものとは言い難い点があり、類型区分が確定したものではない。
 しかし国連リストの類型区分の如何にかかわらず、日本の多くの国立公園が「公園の指定目的に反する開発や居住を排除する」ことが困難な実情にある中で、国有林率が高い国立公園では、国有林の経営方針を国立公園の管理目的に一致させることにより、国有林部分では「公園の指定目的に反する開発や居住を排除する」ことが可能となり、「地域制公園」でありながら、事実上の「営造物公園」として機能することは、国立公園の国際的スタンダードに近づくことになるものであり、その意義は大きいといえる。

7 日高山脈と夕張山地を新規の国立公園候補地とすることの意義
 当協会では1年前の2006年1月30日、環境大臣あてに「日高山脈と夕張山地を新たな国立公園に指定することの要望書」を提出し、その写しを添えて林野庁長官と北海道知事に対して同様趣旨の要望書を提出した(別紙資料3)。
 その特徴と新規の国立公園とすることの意義は、@地形・地質:日本では類例のない特異な生い立ちと地形、A植生:原始性の豊かな森林と固有種に富む高山植物など、B自然環境:日本最大の原生流域、C土地所有:ほぼ全域が国有林と道有林、D産業開発:農林業などの開発の可能性が少なく日高横断道路も建設中止、E野外レク利用:登山の聖地で典型的なバックカントリー、F国立公園としての素質:IUCNの国立公園定義に合致、の7点に要約することができる。
 詳しくは別紙資料3を参照していただきたいが、日高山脈と夕張山地は国立公園としての素質を備えており、それを国立公園とすることの意義は、ほぼ全域が国有林と道有林によって占められているので、本要望書で記したように「地域制公園」でありながら、事実上は「営造物公園」として機能する潜在的可能性を秘めていることである。