2006年11月17日

株式会社ユーラスエナジージャパン 殿                                        
                      
    (社)北海道自然保護協会
 会長  佐藤 謙


(仮称)根室ウインドファーム計画策定に関わる要望書

 貴社が計画されている根室市歯舞地区風力発電事業計画地周辺には、オジロワシの営巣が確認されているほか、越冬期にはオオワシの生息も確認されています。これらの種は、環境省による「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」によって国内希少野生動物種に指定され、環境省のレッドデータブック(RDB)では、オジロワシは絶滅危惧IB類に、オオワシは絶滅危惧U類に挙げられております。また、同地域にはタンチョウなどの希少種の生息情報もあります。
 貴社による事業は、これらの希少鳥類の生息に影響のない方法で実施されるべきであると考えます。そのためには、十分な事前調査を行い、それに基づく客観的な影響評価を行った上で、計画を再検討する必要があると考えます。しかし、貴社による「(仮称)根室ウインドファーム環境影響評価方法書」の記載事項から判断すると、鳥類への影響評価を客観的に行うためには時間的にも内容的にも十分な調査が実施されているとは考えにくく、また不明な点が多く見受けられることから、調査計画そのものに問題があると思われます。
 また、本事業計画地全体が根室半島最大の高層湿原地域として、かつ海霧によって涵養される高層湿原として国内において極めて希少であり、RDBに掲載された希少植物が多く生育することから、現状通りの計画の遂行は、我が国の貴重な湿地生態系の保持する生物多様性保護の観点から、大きな問題点をもっています。
 したがって、これらの問題点を解決・改善するために、下記要望事項に示すように、詳細な調査の実施と慎重な再検討を要望します。貴社におかれては、適切に、かつ早急に慎重なご検討をいただけますよう要望いたします。
 なお、この要望書の写しを関係行政機関に送付することを付記いたします。



要望事項
1.オジロワシとオオワシについて
(1)計画地周辺に生息するオジロワシの繁殖つがいと巣立ち後幼鳥および越冬期に飛来するオジロワシ・オオワシを調査対象として、計画地全体とその周辺地域を結ぶ飛翔経路や高度と、餌場やとまり場等の環境利用に関する十分なデータを収集すること。
(2)繁殖つがいについては、環境庁自然保護局(1996)「猛禽類調査のすすめ方」による方法に準じ、連続した2回以上の繁殖期を含む通年の調査を行い、繁殖ステージや季節の変化、視界不良時や強風等のさまざまな気象条件に伴う行動の変化についても明らかにすること。
(3)越冬期についても、年次変動を考慮し二シーズン以上の調査を行うこと。
2.その他の希少鳥類について
 計画地周辺には、オジロワシやオオワシのほかにも環境省RDB記載種数種の生息確認情報がある。本事業によるこれらの希少鳥類に対する影響評価を行うために、生息や繁殖の状況、利用環境等について十分な調査を行うこと。
3.希少な高層湿原における希少生物と湿地生態系の維持について
 計画地全体が根室半島最大の貴重な高層湿原地域にあることから、植物相および動物相についても網羅的かつ十分な調査を行い、RDBに記載されている希少植物の生育ならびに湿地生態系のもつ生物多様性の維持機能が損なわれることのないようにその維持機構を把握すること。同時に、考えられたと思う複数案の中で、何故、希少な高層湿原地域が選定されたのか、また、風力発電施設の設置のために作業道などによって撹乱される影響については希少生物だけではなく、撹乱面積や、湿原の維持にとって命綱である水脈の分断などの程度についても資料でもって明快に説明できるように調査すること。
4.上記の調査結果を踏まえ、現行の計画がオジロワシ・オオワシやその他の希少鳥類、希少植物および湿地生態系に与える影響について、事業との利害関係を伴わない複数の有識者を含む検討会において客観的な評価を行い、生物や生態系への影響がない施設の設置位置や工事方法について再検討を行うこと。これらの結果および見解を踏まえ、生物多様性保全のための順応的予防的配慮として、より環境負荷が少ない代替地の検討を最優先課題とすること。


要望理由
1.現在、日本で繁殖しているオジロワシは100つがい程度に過ぎず、環境省による保護増殖事業の対象種でもある. しかしながら、2004年度からこれまでに、北海道内では5個体のオジロワシが風車に衝突死していることが確認されている。衝突を未然に防ぐ方法については確立されていないことから、オジロワシの生息地内における風車建設は現時点で衝突事故の可能性を否定することができないと考えられる。
2.「(仮称)根室ウインドファーム環境影響評価方法書」によれば、鳥類の調査は年に4回の「ラインセンサス」、「ポイントセンサス」、「任意観察調査」を行うとしか記載されていない。どのような種を対象に、どの方法で、どのくらいの人数で、どのくらいの日数と時間をかけて調査をするのかを明確にすべきである。また、年に4回という調査回数は、常識的にいって鳥類の環境利用や行動を客観的に把握するためには不十分である。一方、2006年4月に根室でおいて行われた事業者による説明会によれば、オジロワシの行動調査は一日のうち、朝、昼、夕方に30分ずつ行うと説明されていた。オジロワシは待ち伏せ型の採餌行動をとることが多く、一ヶ所のとまり場に長時間滞在することも多い。この調査時間ではとても十分な行動パターンが抑えられるとは考えられない。
3. 一般に、北海道内の繁殖期のオジロワシの主要な行動圏は3-5km程度である。風力発電設置予定地から1kmほどの範囲内に2つがいのオジロワシが営巣しており、計画地は少なくともどちらかのつがいの行動圏内に含まれると考えられる。また、根室半島部のオジロワシにおいては海岸部も主要な餌場となっていることから、繁殖期のつがいは営巣地点と海岸線を往来するために計画地を常時通過している可能性が高い。このことは、山口・長岡(未発表)による調査結果においても示唆される。以上のことから、現行の計画では、繁殖つがいや巣立ち後の幼鳥が風車に衝突する危険性があるだけでなく、風車群が飛翔行動に対する妨害となることや、計画地の風車とその関連施設や人間活動が撹乱源となり、オジロワシの環境利用を妨げる可能性がある。さらに、根室半島において巣立ち後の幼鳥は生まれ年の秋まで営巣地周辺に滞在、周辺を飛翔することが明らかになっており(白木 2000ほか)、飛翔技術が未熟であることからも衝突の危険性が高い。
4. 計画地周辺で確認されている営巣地のうち、一ヶ所は少なくとも1988年以 前から営巣が確認されている伝統的な営巣地である。この営巣地では多いと きには3羽のヒナを巣立たせており(通常は1〜2羽)、比較的良好な繁殖 成績を維持している。このことは、この場所が繁殖地場所として優れてお  り、餌条件も良好であることを示しており、北海道内でも非常に貴重で現状 の営巣環境を維持すべき営巣地である。
5. 事業計画地周辺では、越冬期にもオジロワシ・オオワシの飛翔やとまり行動が確認されているが、継続的な調査がなされていないため、越冬期におけるワシ類の詳細な生息状況は不明である。これらのワシ類に対する影響について評価をするためには、生息状況(個体数と経時変化)について明らかにするとともに、ワシ類が計画地周辺を飛行経路として、あるいは周辺海岸部を餌場として、あるいは計画地内外の沢沿いの林を塒として、利用しているかどうかを明らかにする必要がある。
5.計画地内やその周辺において、環境省の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」による国内希少野生動物種指定種、RDB絶滅危惧U類に挙げられているタンチョウや、RDB準絶滅危惧種オオジシギの生息が確認されている。また、湿原と草原の減少とともに生息数が激減しているアカモズに代表される草原性鳥類の生息分布状況の把握も不可欠である。これらの希少鳥類に対する影響評価を行うためには、生息状況や繁殖状況、利用環境等について十分な調査を行う必要があるが、方法書には、そのための調査方法が記されていない。
6. 計画地は、根室半島最大の高層湿原、国内で極めて希少なタイプの高層湿原地域であり、環境省(2002)によって「日本の重要湿地500」に選定されている。根室半島を含めた根釧地域は1970年代以来の急激な農地拡大に伴い湿原と草原が減少し現在は分断されて残るのみである(添付図1、図2、図3参照)。わずか3km四方に満たない歯舞湿原ではあるが、根室圏内で、分断化されて点在する湿原の中では最大であり、撹乱に弱い湿原生物相の最後の砦となっている。ここには、レッドデータブックに挙げられたカンチスゲなど9種の希少植物(北海道新聞2006年11月8日)が生育しているだけでなく、湿地生態系そのものが保持する生物多様性の維持機能の点から厳重に保全されることが望ましい。


添付資料