北海道知事 高橋はるみ 様
2005年8月23日
大規模林道問題北海道ネットワーク
大雪と石狩の自然を守る会 代表 寺島 一男
ナキウサギふぁんくらぶ 代表 市川 利美
十勝自然保護協会 会長 安藤 御史
(社)北海道自然保護協会 会長 佐藤 謙
北海道自然保護連合 代表 寺島 一男
                       
北海道における緑資源幹線林道事業から撤退することを求める要望書
        並びに同事業の再評価に関する質問書

現在、北海道内の「緑資源幹線林道」として、@滝雄・厚和線(65km、263億円)、A 平取・えりも線(83km、563億円)、B置戸・阿寒線(71km、258億円)の3路線、総事業費 1千億円を超える大規模な林道建設が進められており、このうち北海道は約200億円の事業負担金と約10億円の道有林賦課金を支出することとなっていると承知しております。
 そして、この事業に対しては「大規模林道事業再評価委員会(期中委員会)」「大規模林道の整備のあり方検討委員会」(以下総称して検討委員会という)による事業再評価が行われ、一部区間の「取りやめ」や「計画変更」がなされたものの、基本的には緑資源幹線林道を事業継続するとの方向が出されております。
 しかし私たちはこの再評価結果に対し大きな疑念を抱いています。そもそも国の公共事業(特殊法人等の行う事業を含む)の再評価制度が創設されたのは、大雪山の士幌高原道路問題を契機として、1997年に北海道で始められた「時のアセスメント(時代の変化を踏まえた施策の再評価)」に連動して、同年12月に橋本首相(当時)が、国の公共事業に対して「時のアセス・全国版」の創設を関係各省に指示したことが端緒となっています。
 したがって再評価に際しては「時代の変化を踏まえる」ことが基本であります。すなわち緑資源幹線林道の3路線は、@1969年に計画された新全国総合開発計画の「大規模林業圏開発計画」(上川、網走、日高、十勝、釧路支庁管内、1市33町3村にわたる176万 haを対象)の幹線林道であること、Aそれが計画された当時は高度経済成長時代で人工林を積極的に拡大させる林業政策がとられていたこと、したがって大規模林道建設の主目標は「高生産性林業への転換」にあったこと、という事実を踏まえ、(a)その後に時代はどのように変化したか、(b)林業政策はどのように変化したか、(c)大規模幹線林道以外の大規模林業圏開発計画の実態はどうなったか、などの検証が先ずなされなくてはなりません。
 これらのことを客観的に検証すれば、計画の前提となった高度経済成長時代は70年代に終焉し、拡大造林政策も失敗して70年代に終焉、大規模林業圏開発計画も同時に幻と化したことは明白であります。すなわち計画の前提が崩壊しているのです。
 またこの3路線は国有林、道有林地帯を貫通していますが、その後の時代の変化とともに国有林野事業特別会計は破綻し、1999年に国有林の管理経営は公益的機能を重視するよう抜本的な改革が行われ、道有林経営も同様に2002年に抜本改革され木材生産から撤退しました。その間、大規模林業圏が計画された当時の林業総生産の増大をめざす「林業基本法」は、2001年に森林の公益的機能を重視する「森林・林業基本法」に抜本改正されました。また北海道では「森林には、木材を供給する役目に重きが置かれてきたため、徐々に貴重な天然林資源が減少し、その豊かさが損なわれてきた面もあった」ことを反省し、2002年に「北海道森林づくり条例」が制定されました。
 このような流れを受け、「大規模林道は公益的機能を発揮するため必要」という声が聞か
れるようになっています。しかし森林が公益的機能を発揮するのは、そこに森林が存在することによる効果が大きいものであり、公益的機能を高めるため、高生産性林業(大量の林産物の搬出と拡大造林)を前提として計画された大規模林道が不可欠、という論理は成立しません。むしろ山奥で、大規模ゆえに必然的に大量の土工量と支障木などの発生を伴う大規模林道は、緑の自然環境を傷つけ破壊し、森林の公益的機能の発揮に逆行しているのが実態です。
 ところで検討委員会による事業再評価は、その対象範囲を、3路線を細分割した局部に限っており、大規模林業圏176万 haの中での3路線(全延長)が果たす役割、必要性、効果などの検証を欠落させています。また時代の変化の検証も欠落させています。それでいながら、事業継続の結果を打ち出しました。これは不合理きわまりないことです。
 したがって200億円以上の北海道費の支出を義務づけられる北海道としては、以上のこ とを踏まえて、独自に事業の目的、必要性、効果を冷静、客観的に分析、検証するとともに、危機的な非常事態に陥っている緊迫した北海道財政の中で、200億円以上を支出する 緑資源幹線林道事業を継続する意義がないことをきっちりと認識し、この事業から撤退することを強く要望いたします。
 またこの事業は、いま現在、検討委員会の再評価結果を妥当と認めて事業が継続されており、北海道費の支出も継続されているのです。したがって検討委員会の再評価内容に関し、下記事項を質問いたしますので、北海道知事としてどのように認識するのか、早急に文書による明確な回答をくださるようお願い申しあげます。


 記
< 質 問 事 項 >

 1 再評価の基本に関する質問
(1)検討委員会による事業再評価は、対象地域を細分化したため、緑資源幹線林道全体を通じての目的、必要性、効果の検証を欠落させており、また路線計画の前提となった当時の時代背景(高度経済成長下における拡大造林政策)が、その後、現在までにどのように変化したかの検証を欠落させ、事業継続との結論を導いている。そして北海道は、その事業継続に対し事業負担金や賦課金を支出している。
 したがって、全体を大局的に見る視点を欠き、時代の変化の検証を欠落させた再評価結果に基づき事業を継続することが、合理的で適切であるとする根拠を明確に示すこと。

 2 大規模林業圏開発計画に関する質問
(2)「北海道の緑資源幹線林道」(緑資源機構北海道地方建設部、2004)によれば、事業を継続中の3路線は、「北海道山地」「1市33町3村」の「176万 haを対象」とする大規模林業圏の幹線林道と位置づけている。その一方で3路線の「受益地」は合計46,300ha(滝雄・厚和12,500ha、平取・えりも20,900ha、置戸・阿寒12,900ha)と記載している。これによれば46,300 ha以外の170万余 haは3路線と無関係になってしまう。したがって 3路線の整備は、受益地以外の170万余 haの地域と林業振興の上でどのような有機的関係を有し、なぜ、どのように3路線が176万haの圏域全体の幹線機能を発揮することができるのか、明確な根拠を示すこと。
(3)検討委員会による再評価は大規模林業圏開発計画との関係を無視して結論を出したが、大規模林業圏開発計画のうち大規模林道以外の部分(例えば伐採量、造林量、林道網など)は1969年当時どのような計画目標をもち、その後、計画目標の何が達成され、何が達成されなかったかを具体的に明らかにするとともに、3路線の大規模林道がその全体計画の中で、なぜ今後も事業継続する必要があるのかを立証できる根拠を明示すること。

 3 完成した大規模林道の波及効果の実績に関する質問
(4)3路線のうちもっとも早期に着工された滝雄・厚和線の完成部分について、@完成した幹線林道から派生して新しく開削された支線林道は、どの場所に、どれだけの延長で新設されたかの実績を示す資料、Aその支線林道の沿線で造林面積が、どの場所で、どれだけ新規に増大したかの実績を示す資料、B完成部分に関係する町村で、幹線林道が完成したことにより林業従事者がどれだけ増大し、木材関連産業がどれだけ振興されたかの実績を示す資料を明示すること。

4 大規模林道と地域森林計画(国有林の地域別森林計画を含む)
との整合性に関する質問 
(5)大規模林道(緑資源幹線)の考え方は、高度経済成長期の拡大造林政策を背景とする広域林道である峰越林道およびスーパー林道を継承・発展させたもので、当時は人間優位で自然を制御・支配する姿勢がつよく、自然環境への配慮は不十分な時代だった。峰越えは全線が地上ルートであっても、一部トンネルであっても、必然的に地形改変の程度が大きくなり、自然環境を傷つけ、工費が高くなることを避けられない。
 そうしたことへの反省に加え、より合理的な林業生産、加工、流通を、国有林・民有林を通じて適切に行うため、1990年代からは「森林の流域管理システム」が導入されるようになった。したがって現在の森林計画制度では、国有林・道有林・私有林を通じて、流域単位の森林計画区が設定されている。
 北海道の場合、具体的には、@天塩川、A石狩川、B網走・湧別川、C十勝・釧路川、D沙流川、E渡島・尻別川の6広域流域に分け、さらにこれを13の森林計画区に分けて、民有林の地域森林計画および国有林の地域別森林計画が樹立されている。
 ところで緑資源幹線林道のうち、置戸・阿寒線は前記B網走・湧別川流域からC十勝・釧路川流域へ峰越しするものであり、平取・えりも線はD沙流川流域からC十勝・釧路川流域に峰越しするものである。@したがって緑資源幹線林道は、北海道の森林計画の基本である13森林計画区はもちろん、6広域流域とも整合しない。それにもかかわらず緑資源幹線林道事業は現在執行されているので、なぜ森林経営のために(一般の公道的な利便を除き)森林計画制度の流域単位を越える林道が、しかも必然的に自然環境へ与える影響が大きくなる峰越林道が不可欠なのか、その理由を明示すること。
 またA検討委員会では、緑資源幹線林道と森林計画区との関係は論議も審議もなされた形跡がうかがえないが、北海道はその事業費に負担金や賦課金の支出を行っているので、森林計画の基本である森林計画区と林道の関係が論議されない検討結果を妥当とし、負担金などを支出することが合理的で適切であるという根拠を明示すること。

5 新しい道有林経営と大規模林道に関する質問
(6)「北海道森林づくり白書」(北海道、2002)に記載の「新たな道有林基本計画」によれば、今後の道有林は「公益性を全面的に重視」して「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止」し、「複層林化や下層木の育成を目的として行う受光伐を導入する」などの整備を推進することになっている。また2002年に制定された「北海道森林づくり条例」(第20条)によれば、「道は、道有林野について、公益的機能の維持増進を図るため」に管理運営することとなっており、ここには木材生産への言及がない。
 ところで緑資源幹線林道のうち、様似・えりも区間4,600haの全部(100%)、様似区間4,500haのうち2,800ha(62%)、置戸・阿寒区間6,700haのうち1,200ha(18%)は道有林が占めている。すなわち様似・えりも区間と様似区間は、事実上、道有林のための大規模林道といえる。その道有林が「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止」し、「複層林化や下層木の育成を目的として行う受光伐を導入する」程度の施業を行うために、高生産性林業(大量の林産物搬出と拡大造林)を前提として計画された大規模林道が必要とは、とうてい考えられない。現に北海道が期中委員会に対して提出した「期中委員会における指摘事項」への意見書(03年11月19日)では、様似・えりも区間の必要性として「災害時の代替道として、常に通行止めの不安にさらされている地元住民の期待が大きいこと」を第一に挙げ、森林経営の必要性は二の次としている。
 仮に林道を必要としても公益的機能を発揮するためには、小規模な林道で十分に役割を果たせるはずである。また様似・えりも区間は、日高山脈の主稜を横断するものであり、その主稜線付近の森林は、公益的機能を発揮するため積極的な人手を加えなければならない条件にはない。たとえ「様似町側とえりも町側が連絡されていない状況にあり、このため、大きく迂回することを強いられる」現状(北海道の意見書)であっても、それを受忍することの方が、公益的機能の維持には有効である。日高山脈の主稜は標高が低い部分でも地形急峻で地質条件が悪いので、そこに大規模林道はもちろん小規模でも峰越林道を開削すれば、支障木の伐採や切盛土工量が増大し、希少な植物群落の消滅、土砂崩落の誘発など、自然環境に悪影響を与えることが必至であり、公益的機能の発揮に逆行するものである。また様似区間は主稜線を横断するものではないが、道有林経営の観点からは様似・えりも区間と同条件である。したがって、@道有林の経営上、様似・えりも区間および様似区間の緑資源幹線林道が不可欠という根拠を明確に示すこと。
 なお北海道の意見書にあるように「災害時の代替」のため(とくに目黒の住民がえりも本町へ連絡する)道路が必要であれば、冬期間の除雪をしない、山間のアップダウンがある、そして完成まで長期間を要する林道よりも、平坦地を走る国道三三六号の防災工事を促進することの方が公共事業の「集中と選択」の観点から有効である。現に国道三三六号では、落石・土砂崩壊・波浪・雪崩などの災害に強い道路としてトンネルや覆道を整備中であり、すでに「タニイソトンネル」「宇遠別トンネル」「咲海トンネル」などが2005年2月までに完成しており、通行止めとなるのは、120ミリの雨の場合に緩和される(従前は80ミリ)。さらに目黒・庶野間においては、国道三三六号と平行して内陸部を走る広域基幹林道(「森林居住環境整備事業」)が、480メートルを残してほぼ完成し遅くとも2007年には完成の見込みである。それにも関わらず、A長期間完成しない様似・えりも線が、災害時の代替としてなぜ必要であると主張するのか、明確な根拠を示すこと。

6 平取・えりも線の検討委員会検討結果に関する質問
(7)様似・えりも区間の「期中委員会」の「期中の評価個表」によれば、「森林・林業情勢」は、受益地では「今後、事業量は増加の見込み」で「様似町の林産加工施設への素材の輸送ルートとして機能」するとし、「受益者」としては「森林資源の有効利用、地域産業の重要な役割を果たす」としている。
 しかしこの受益地は100%道有林であり、その道有林は「木材生産を目的とする皆伐・ 択伐を廃止」したのであるから、「事業量は増加」および「地域産業の重要な役割」という現状認識および将来予測は、誤った判断といわざるを得ない。しかし北海道はその評価結果を妥当として事業負担金および賦課金を支出しているのであるから、その現状認識および将来予測が誤りでないことを立証する具体的な根拠を明確に示すこと。
(8)上記と同じ「期中委員会」の「様似・えりも区間の残工事分に関する費用対効果分析結果」によれば、便益合計約82億円のうち、その85%余りの約70億円を木材生産便益としている。しかし全域での「木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止」した道有林の便益としては、これは信じがたい数値である。したがって70億円(正確には6,997百万円)の具 体的な算出根拠を示すこと。
(9)上記により、仮に約70億円の木材生産便益が得られるとすれば、大規模林道ではなく、小規模林道であっても理論的にはほぼ同程度の便益が得られるはずであり、公共事業の投資効率としては大規模林道ではなく小規模林道の方が大きく、また自然生態系保全、自然景観維持の観点からも有利であることは明白である。したがって、なぜ、投資効率が高く、自然環境保全にも有利な小規模林道の新設を行わず、大規模林道事業を実施するのか、明確な根拠を示すこと。
(10)上記(8)の費用対効果分析結果では森林整備経費縮減等便益が約7億6千万円とされている。その一方、「あり方検討委員会報告書」による様似区間の「変更計画案に対する費用対効果分析の概算分析結果」によれば、森林整備経費縮減等便益が約73億円とされている。しかし両区間の林道延長、受益面積、人工林率はほぼ同程度である(様似・えりも区間・14.1 km、4,600 ha、人工林7%、様似区間・14.4 km、4,500 ha、人工林9%)。また両区間は同じ日高地方で隣接する区間であり、気候的環境も大きな差異はない。それにもかかわらず、様似区間は様似・えりも区間の約10倍の森林整備経費等縮減便益が得られているのは、理解し難いことである。したがって両区間の森林整備経費縮減等便益の算出根拠を具体的に示し、なぜ10倍もの差異が生じたのか理由を明示すること。


7 大規模な林道工事に伴う環境改変のマイナス評価に関する質問
(11)大規模林道は山奥の急傾斜地に広幅員で造成されるので、必然的に土工量が増大し工事に伴う支障木の伐採が多くなり、長大法面が出現する。また河川へ土砂が流出して水質を汚濁させ河川生態系に打撃を与えた事実も発生している。すなわち大規模工事に伴い、水土保全機能の衰退、野生生物など生態系への悪影響、風致景観の阻害など公益的機能の損失をまねくことは必至である。現に平取・新冠区間では、03年の台風10号の襲来に伴い、大規模林道の開削が林道の路面の崩壊のみならず、切盛法面や斜面の崩落、植生の破壊など、大規模災害を誘発したことは記憶に新しい。しかし「期中委員会」と「あり方委員会」の議事録や配布資料を見ても、大規模林道工事に伴う森林の公益的機能のマイナスに対する評価はなされていない。
 それにもかかわらず北海道は事業負担金および賦課金の支出を継続している。したがって北海道として、このような森林の公益的機能の維持・増進にとってマイナスとなる評価を欠落させたまま、事業を継続することが合理的で適切であるという根拠を具体的に明らかにすること。



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