環境大臣 小池百合子 様
2005年3月22日
社団法人北海道自然保護協会  会長   佐藤  謙
セイヨウオオマルハナバチの特定外来生物への早期指定を求める要望書

 今般、外来種規制に関わる法律が制定され、指定候補種の選定作業が進められております。この段階において、貴省に関わる法令に関して最初に感じることは、70年代初めの自然環境保全法制定では自然公園法による保護地域を外して原生自然環境保全地域や自然環境保全地域を指定したため保護地域がまったく増えなかったこと、また90年代初めの種の保存法制定時では多数の絶滅危惧種の中で指定種が桁違いに、極めて少数種に限られたことです。すなわち、自然保護に関する法令を制定しても内容と実効性が伴わない、すなわち、「仏造って魂入れず」を私たちは長い間、強く感じさせられてきました。貴省には、他省庁との調整という難しい仕事があるかと推測されますが、先進国である我が国の自然保護行政が、世界に通じる理念と実効性をもって誇れるように、常に高い見地から行政を進められんことを切に願っております。
  さて、私たちは、生物多様性保全のために外来種規制を進める中で、とりわけセイヨウオオマルハナバチの野生化・自然への重大な影響を防ぐため、以下の理由によって、同種の「特定外来生物」への早期指定を強く要望いたします。

.セイヨウオオマルハナバチ導入・野生化は、自然保護の上から重大な問題である

ヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris L.)は、1991年からトマトなど温室栽培植物の受粉用に導入が開始され、全国の農家で利用されている。その後,輸入販売されるコロニー数は年々増加し、現在では国内生産も含めて年間約7万に達し、多くの生産者がその恩恵を受けている。しかし、一方で、セイヨウオオマルハナバチの野生化による自然生態系への影響が導入当初から危惧されていた。近年、専門家の調査研究によって、同種の野生化が確実に分かり、生態系への影響が現実化した地域が次々と明らかにされてきた。北海道では、多数の調査研究によって日高地方における野生化が明らかにされ、セイヨウオオマルハナバチは、北海道環境生活部のブルーリスト(外来種対策の基礎資料)では、最も影響がある「A」ランクのカテゴリーに位置づけられ,注意すべき外来種として扱われている。セイヨウオオマルハナバチの野生化は、日高地方などに分布・生育するサクラソウなど多数の希少種を含む野生植物への影響だけではなく、北海道の基幹産業である農業のための植物、すなわち、他種の作物への影響も大いに懸念される。
 セイヨウオオマルハナバチの導入は、そもそも日本では野生化しないという導入者の主張に基づいて始められた。しかし、現在、その予想はまったく外れ、日本各地から野生化の報告が寄せられる状況となっている。従って、これまで行われてきたセイヨウオオマルハナバチの野生化防止策は十分機能してこなかったことが明白である。その原因として、導入当初から防除ネットの普及が積極的に行われなかったこと、セイヨウオオマルハナバチの使用方法や同種が生態系に与える影響、その他について注意すべき点が充分に説明されてこなかったこと、使用済みコロニーの回収努力を怠ったことなどが挙げられる。さらに、野生化の事実に関する生態学的研究が明らかにされ、自然への影響が大いに懸念されたにもかかわらず、輸入の是非や禁止などについて充分な検討がなされず、何ら効果的な対策が講じられてこなかったことが挙げられる。
 この状況下において、セイヨウオオマルハナバチの販売促進を続行し、外来種対策を先延ばしにすることは、日本の生物多様性保全にとって重大な禍根を残すと判断する。貴省においてこれまで行なわれてきたセイヨウオオマルハナバチをめぐる議論には、次項以降に示す論点が欠ける、あるいは不足しているので、以下に列記し、貴省におかれては、同種の特定外来生物への早期指定を検討すべきであると、強く要望する次第です。

.重要な論点
1)予防の原則
 生物多様性条約第6回締約国会議決議において採択された『生態系,生息地及び種を脅かす外来種の影響の予防、導入、影響緩和のための指針原則』では、規定された指針の最初に、「原則1.予防的アプローチ」が挙げられている。これには「侵入種の様々な影響に関する科学的な確実性が欠如していることを、必要な撲滅、封じ込め、予防措置をとることを先延ばしにしたり、あるいは措置をとらない理由とすべきでない」と明言されている。しかし、これまでのセイヨウオオマルハナバチの特定外来種指定をめぐる議論では、科学データが足りないことだけが強調され、結局、指定先送り、継続審議との結論が出された。この結論は、上記の指針・原則からかけ離れたものであることは言うまでもない。同種の指定を先送りした判断は、外来生物対策の基本的な論点からまったく納得できないものである。
2)特定外来生物に関する「指定と先送り」の論拠と、利害関係者との調整について
 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」案を作成するに当たり、貴省では、当然,利害関係者との間に軋轢が生じることが十分予測されていたと思われる。なかでも、セイヨウオオマルハナバチは、ブラックバスとともに、我が国における外来種の象徴のように扱われ、しかも利害関係者との軋轢が生じると予測されていた。しかし,今回の結論は、ブラックバスは指定の方向,セイヨウオオマルハナバチは先送りとなり、その論拠には不公平感が感じられる.後者が指定先送りとされた理由は、生産者の準備期間が必要とのことであった。
 しかし、特定外来生物は、一切の例外を認めずに輸入および飼育を禁止すると規定されていない。特定外来生物はまた、その指定が検討されているブラックバスがリリース禁止とされず,同様なアライグマは許可制で飼育が認められており,対象種に応じてある程度異なる、段階的対応などの弾力的な対策を講じることができる。他方で、外来種対策を講じる時期が遅れれば遅れるほど、効果的な対策を行なうことが難しくなる。従って、対象となる特定外来生物は、その用途や状況に応じたガイドラインを最初に設け、段階的な対応など弾力的な対策を早急に講じていくべきである。
 上記の観点から、セイヨウオオマルハナバチに関する生産者の調整と準備は、指定を先行させその後の柔軟な対応によって、充分に可能であったと考える。また,セイヨウオオマルハナバチが「外来特定生物」に指定されるメリットも議論されるべきであったと考える.例えば,「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」を根拠にして、セイヨウオオマルハナバチ駆除活動や防除ネット展張に対する補助金等の支出が可能になるような現実的な議論がなされるならば,生産者からの理解もより容易に得られたのではないかと考えている。
 さらに付言するならば、問題解決が困難と予測され、かつ利害関係者との軋轢が生じやすい外来生物こそ、真っ先に特定外来生物に指定するべきであったと考える。それによって、外来種問題がより鮮明に浮き彫りになり,その結果、一般市民の共通認識が形成され、根本的な対策を早く講じることができると考えるからである。

3)特定外来生物の指定が使用禁止を意味しないことの説明不足

例えば、2004年11月20日付の日本農業新聞の論説では、「オオマルハナバチ/規制対象から除くべき」という題名で、「規制をかけることは避けるべき」や、「規制が除外される方針」といった、外来種規制の内容を全く把握しない主張が掲載された。この主張は、特定外来生物に指定されるならばセイヨウオオマルハナバチが一切使用できないかのような、誤った印象を与えている.この例のように、極端に誤った認識が広がった原因は、本法律に関する貴省の普及啓発活動が不足であったことにあると判断される。とくに、セイヨウオオマルハナバチに関しては,生産者に正しい考えを広めるため、特定外来生物を説明する小冊子の作成など、普及啓発に努める必要があったと考える。貴省におかれては、上記のような誤認に対しては公式な見解を述べ、また普及啓発に努められることを、ここに強く要望したい。

4)原因を明らかにして今後の対策を考える視点の欠如

 貴省におけるマルハナバチ小グループの議事録を見ると、セイヨウオオマルハナバチ野生化の原因がどこにあったのか全く議論されていない。生産者や取扱い業者、研究者、農水省、環境省それぞれにおいて、現状を許してしまった原因はなかったのか、論議すべきであったと考える。なぜならば、原因を不明なままにした議論は、今後の効果的な対策に結びつかず、今後の防除活動にも悪影響を及ぼしかねないと考えるからである。
 セイヨウオオマルハナバチの野生化による影響は、自然生態系にとどまらず、今後、他の作物など農業にも直接波及する危険性を否定できない。そのことに今回の論議では一切触れていない。農業被害が生じた場合は、誰にどの機関に責任があり、その補償は誰がどの機関が行なうのか、これらの論点まで、現段階から議論されるべきであったと考える。それがなければ、農業者自身の被害だけで終わってしまうと予想される。今回の先送りの理由として、セイヨウオオマルハナバチを使用する生産者への対策として準備期間の確保が必要であるとされたが、それは言い訳に過ぎず、実際の生産者・農業者の立場は、農業を広く見た現実的な議論を求めていると考える。
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