20051227

      沙流川水系河川整備計画[変更](原案)に関する意見

                                                      (社)北海道自然保護協会

                               会長 佐藤 謙

 

1.変更案の概要

 200512月7日に開催された沙流川水系流域委員会において、以下の整備計画変更原案が示された。沙流川水系河川整備に関して、平成1112月に基本方針、平成14年7月に整備計画がそれぞれ策定されている。しかし、平成15年8月の洪水では整備計画目標流量(4,300m3/s)を上回る約6,100m3/sの洪水ピーク流量が発生したので、その規模の洪水に対応するため、平成1711月、国土交通省の河川整備基本方針検討小委員会で基本方針が変更された。それに応じて、今回、流域委員会を再開し、整備計画変更を論議することになった。変更案の具体策は、「現行の河川整備計画の基本的な考え方を踏襲する(二風谷ダムと平取ダムにより最大限洪水調節し、それでも不足する洪水流量を河道で対応する)」ことから、「両ダムの洪水調節効果を最大限活用し、その上で河道掘削の区間、断面を拡大する」としている。

 

2.原案自体に関する欠陥

(1)基本高水流量と整備計画目標流量について

 平成1711月に示された河川整備基本方針では、基本高水のピーク流量を6,600m3/sとしており(6頁)、今回の河川整備計画変更原案では目標流量を6,100m3/s16頁)としております。

 しかし、これらは、今回の変更原案の根本となるにもかかわらず、その具体的な根拠が原案に示されておりません。この点は、説明責任を回避した点で、大きな問題と考えます。

 

(2)洪水調節計画流量配分について

 前記の目標流量6,100m3/sは、洪水調節施設(二風谷ダムと平取ダムの2つのダムと口頭説明)により1,600m3/sを調節し、平取基準点では4,500,3/sとするとされております(16頁)。

 しかし、同頁の図では、糠平川において平取ダムの下流側に1,600m3/sが示され、沙流川本流の二風谷ダムでの数値が見あたりません。これは、二風谷ダムの治水能力の変化について原案に記載しない欠陥になり、次項で述べるダムの堆砂容量と洪水調節容量と関連して、大きな問題と考えます。

 

(3)堆砂容量と洪水調節容量について

 2つのダムにおける貯水池容量配分図(20頁)には、堆砂容量、洪水調節容量などが示されています。二風谷ダムについてみると、堆砂容量が5,500,000m3から14,300,000m3に2倍以上に増加され、逆に、洪水調節容量は26,000,000m3から17,200,000m3に急減されております。他方、平取ダムについては、前者が11,900,000m3から 1,300,000m3に激減され、後者が31,500,000m3から43,800,000m3に多少とも増加されております。これらは、2つのダムの総貯水容量と堤高を変えないままの変更点です。流域委員会では、以上の結果、洪水調節容量は3,500,000m3増加するとの口頭説明がありました。

 しかし、平成15年の洪水において二風谷ダムが果たした洪水調節能力とその際に生じた同ダムの堆砂量の実態について科学的に検証することが先決事項であり、そして、膨大な堆砂を浚渫によって除去することが現時点で何よりも必要と思われます。二風谷ダムの現状は、洪水調節ゲートが土砂や流木によって常時半分ほど埋もれており、洪水時の放流にも大きな影響が生じると危惧されます。変更原案では、それらをいっさい説明していないので、大きな問題と考えます。すなわち、二風谷ダムの洪水調節能力について不問にしたまま、今後、平取ダムを建設し、二風谷ダム下流の河道掘削を進める整備計画は、説得力をまったく持ちません。

 他方、平成15年洪水を含んで二風谷ダムにおける堆砂量は、完成後5年間で、当初、同ダムで見込まれた100年間分の5,500,000m3に相当するものに達しております。沙流川流域において本流と糠平川の流水は、通常、後者で濁り水・泥水が発生しておりますので、堆砂の主な供給源は日高山脈最高峰を源流とする糠平川流域にあると判断できます。そうした点から、平取ダムの堆砂容量が激減されている点は、まったく説得力を持ちません。

 洪水調節容量と堆砂容量は、相互に密接に関連しておりますので、沙流川水系全体の土砂流出の仕組みを押さえた上で、2つのダムの堆砂容量を説明すべきです。

 

3.沙流川水系の流域全体における自然環境およびアイヌ文化の保全に関して

(1)河道掘削に関連した自然環境調査について

 変更原案は、2つのダムによる洪水調節能力を超えた部分を二風谷ダムの下流側における河道掘削で補うとされております。この点は、とりわけ新たな河川工事として、実質的に、自然環境調査を行う必要があると考えます。沙流川水系河川整備に関する環境アセスメントは、河川法が改定される以前のものが基本となっており、現状の自然環境を把握したものではありません。とくに平成15年の洪水によって二風谷ダムもその上下の流域も著しい変化を示し、そのため、今回の変更原案に至ったのですから、自然環境についても十分な現状調査を行った上で、今回の流域委員会開催に図るべきであったと判断しております。ちなみに、平取ダム建設に関連した「平取ダム環境調査検討委員会」は、二風谷ダム下流域については、検討対象ではなかったことから、改めて、自然環境の調査が必要であったと考えます。

 12月7日の流域委員会では、「シシャモの生息が大丈夫か、希少植物については問題ない」という主旨の委員からの発言がありましたが、それにすら十分な議論がなされておりませんでした。今回の変更原案では、改めて、野生動植物を含む流域全体の自然環境の把握が必要と考えます。そこでは、既存の二風谷ダムの魚道について、魚類の回遊・移動に関する効果もまた科学的調査に基づいて説明する必要があります。とくに魚道を使用するサクラマスの回遊については、すでに同ダム上流側で放流実験を行ってしまい魚道検証が困難なのかもしれませんが、十分な科学的説明が必要と考えます。さらに、二風谷ダムの下流で生じている河床低下の実態についても、シシャモ漁業とも関連して科学的に十分に説明する必要があります。

 これらの自然環境調査に関して、ダム建設後や河道掘削後に行うモニタリングとそれによる対処、あるいはミチュげーションは、河川法でうたわれている自然環境保全の重視と密に関係する事前調査・アセスメントには決してなりません。

 

(2)平取ダム計画にかかわるアイヌ文化環境保全対策調査について

 標記は、平取ダム周辺地域のアイヌ文化に関して、平取町アイヌ文化調査室とアイヌ文化環境保全対策調査委員会が進め、平成17年3月に平取町から同調査中間報告書が公表され、平成18年3月の総括報告書取りまとめが予定されています。この報告書作成は、平成9年5月に制定されたアイヌ文化振興法とともに、平成9年3月の二風谷ダム裁判判決文に示された判断が大きな要素となっております。

 上記の中間報告書では、調査対象地域を平取ダム周辺地域(基本的に平取ダム建設によって水没するエリアならびに堤体管理施設、管理用道路をはじめとした周辺関連施設のエリアを指す)とし、実際の調査地域は、基本的には沙流川流域全体を指すと記述されています。上記の調査委員会は、現在、総括報告書をまとめ中であると思われます。

 そうした調査委員会の取りまとめ中に、その調査対象地域である二風谷ダム下流域において河道掘削を含む変更原案を論議することは、アイヌ文化環境保全対策調査委員会の存在または論議を無視するものと考えます。今回の流域委員会は、上記委員会の進行過程との関連が何ら説明されずに、流域委員会だけを先行させて開催されたことが大きな問題であります。本来は、アイヌ文化環境保全対策調査に関する報告書が出された上での、前項を合わせると、自然環境調査をまとめてからの、流域委員会開催とすべきです。

 付言するならば、12月の繁忙期に2回も流域委員会を開催し、年末までにパブリックコメントを求めることは、国民に議論をさせない姑息な方法と感じられ、まことに大きな問題と考えます。