北 海 道 知 事
高橋 はるみ様
北海道森林管理局長 亀井 俊水 様
環境省自然環境局長 小野寺 浩 様
2004年9月27日
(社)北海道自然保護協会  会長 佐藤 謙
台風18号による森林被害の復旧に際し、
      北海道の森林生態系の保全を重視することの要望書
 去る9月8日に北海道を襲った台風18号は、不幸にも各方面に多大な被害をもたらしました。台風18号は、1954(昭和29)年の洞爺丸台風以来の大型「風台風」といわれ、森林被害もきわめて大きかったことが懸念されますが、現在、その概況が明らかにされてきた時点にあります。
 北海道水産林務部資料(9月22日18時まとめ)によりますと、林業関係(一般民有林と道有林)の被害総額は約33億円、そのうち倒木等森林被害は約17,000ha、約29億円に上ること、支庁ごとの被害額は網走約6.4億円、後志約6.0億円、十勝約4.4億円、上川約3.6億円、渡島約2.3億円、胆振約1.8億円、留萌約1.8億円、石狩約1.3億円など(被害額順)に及ぶことが報告されております。他方、北海道森林管理局によるプレスリリース(9月17日)によりますと、森林管理署ごとの被害区域面積は胆振東部4,320ha、石狩3,740ha、空知ほか21(支)署890ha、合計約8,950haに上ること、また国有林の被害が樽前山麓や積丹岳周辺に集中したことが報じられております。今回の台風による森林被害は、今後の調査によって詳細が把握されていくものと思いますが、洞爺丸台風に匹敵するか否かにかかわらず、その復旧対策は今後の森林行政にとって重要な課題になると考えます。
 ところで、洞爺丸台風による森林復旧対策は、当時の木材生産を重視した社会経済的背景のもとに進められましたが、結果としては、別記のように、その後の北海道の生態系に大きな影響を与えました。しかし、21世紀を迎えた現在、森林を取り巻く社会経済的背景は半世紀前とは大きく異なり、生態系の有する価値・森林の公益的機能が重視されるようになっております。
 したがって、今回の台風被害の復旧、とくに自然林(天然林)の復旧に当たっては、下記事項を基本として、森林生態系の保全を重視した対策を講じられますよう、ここに要望いたします。
 森林被害の復旧に当たっては、洞爺丸台風当時のように木材生産的価値観だけを重視することなく、「木材を供給する役割に重きが置かれてきたため、徐々に天然林資源が 減少し損なわれてきた」(北海道森林づくり条例前文)ことを銘記し、「北海道にふさ わしい豊かな生態系をはぐくむ森林を守り、育て、将来の世代に引く継ぐ」(北海道森 林づくり条例前文)という趣旨に立脚すること。
 いま「自然再生推進法」が新しい公共事業の受け皿として各方面から注目されているが、本来は立法以前に明確にされるべき論点、「自然再生とは何か、失われた自然を本当に再生できるのか」などといった基本論議が今なお続けられている現状にあり、そうした中で、「受動的再生」(人為的に何かをつくるのではなく、基本は自然の回復力に任せ、それを多少とも手助けすること)が重視されるようになっている。今回の森林被 害の復旧に当たっては、この「受動的再生」の観点を基本とすること。
 自然公園、自然環境保全地域、鳥獣保護区、国有林の森林生態系保護地域、水土保全 林、森林と人との共生林など、とくに自然の保護保全を重視すべき地域では、風倒木の果たす生態的役割(森林生態系における倒木更新、キツツキ類の採餌、土壌形成への寄 与など)を最重要視し、山火事や病虫害防止のための処理は最小限とすること、また風倒跡地への恒久的な林道新設は行わず、森林再生は天然林更新補助作業を基本とし、植林も最小限とすること。
(別記)
洞爺丸台風の風倒木処理が、その後の北海道の森林環境に及ぼした影響
@1954年5月および9月の台風による風倒木被害は、2,688万m(当時の単位では9,660万石)に達し、それは当時の北海道の伐採量の3.5年分(国有林では4.5年分)に相当する量だった。
A当時の林業政策の最重要課題として、風倒木の木材資源としての活用、また山火事と病虫害防止が挙げられ、北海道各地で林道が網の目のように急造された。これらの林道の一部はその後に一般道路となり、また林道のマイカー利用も多く、無秩序な観光・登山利用が誘発され、高山植物の盗掘や山岳環境の荒廃がもたらされた。
B風倒木処理事業で増大した木材業界への配慮から、風倒木処理終了後も伐採量の拡大が維持され、それが1960年代からの拡大造林政策につながった。しかし、拡大造林政策 は初期の目的を達成できず、70年代後半から「森林の公益的機能」を重視する林業政 策に転換した。それまでの間に、北海道の自然林は大きく面積を減じ、また大径木の減少など森林の質的劣化がもたらされた。
C風倒跡地には多くの場所で植林が行われたが、大雪山国立公園などでは失敗した事例が 多かった。例えば、『石狩川源流森林総合調査報告』(旭川営林局、1977)には、「皆伐 状になった風害跡地造林に対して気象条件は予想外にきびしく、・・・凍霜害の著しい被害を受け消滅しまったものがきわめて多かったこと。とくにトドマツ、エゾマツ、ニホンカラマツの造林地は、他の原因とあいまってほとんど消失した」と報告されている。その結果をふまえ、「高寒地造林法」として、アカエゾマツ、グイマツ、ヨーロッパア カマツの植林が奨励されるようになったが、アカエゾマツの立地条件は限定的であり、 また後2者は外来種であるため、その土地本来の森林生態系を重視した、本来的な「自然再生」とはなっていない。
D今回の台風18号の風害跡地に対して、洞爺丸台風当時と同じような復旧対策が講じられるならば、「北海道森林づくり条例」にうたう「北海道にふさわしい豊かな生態系をはぐくむ森林を守り、育て、将来に引き継ぐ」ことができない。
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