国土交通大臣
北側 一雄 様
北海道開発局長 吉田 義一 様
北見市長 神田 孝次 
2004年11月4日
(社)北海道自然保護協会  
「北見の自然風土を考える」市民連絡会
会   長  佐藤 謙
代表委員  大島 乙彦
代表委員  佐藤 毅
「一般国道39号北見バイパス(北見市〜端野町)」の中止を求める要望書
貴職、国土交通省と北海道開発局は、北見市街地の南部に「北見道路(一般国道39号北見バイパス)」を計画中ですが、当会は、この道路計画が自然保護の上から非常に大きな問題であると判断しております。それは、貴職による「環境影響評価書(平成13年)」や「北見道路整備における環境保全対策を考える懇談会」の公表資料に根本的な誤りが多々あり、貴重な自然を失わせてしまうからです。私たちの判断に至る論拠をここに詳述し、現在の計画路線の中止を強く求める次第です。
 道路予定地の自然は、極めて貴重である
(1)道路予定地の植物相(フロラ)は、極めて多様で特殊である

 「北見道路(一般国道39号北見バイパス)環境影響評価書(以下では単に、評価書と呼ぶ)」によると、維管束植物538種類がリストアップされている。そこには80余種の帰化植物・移入植物と10余の種内変異が含まれているので、道路予定地に約440種の自生植物があることになる。この種数は、北海道東半部の低標高地では極めて多い値であり、しかも道路予定地の標高範囲が約50~210mと狭いことを考え合わせると、道路予定地の植物相は、極めて多様であると結論づけることができる。ちなみに、自然性が豊かな知床山系では標高範囲約1,600mに高山、亜高山、海岸、湿原など多様な生育地を含んで全体で800余種が知られ、羅臼岳では標高約250m以下の森林域に200余種が数えられるに過ぎない。
 また、上記評価書において着目すべき植物として30種が挙げられているが、この希少植物の種数もまた、低標高かつ狭い標高範囲では、特記される多さである。上記30種には、石灰岩地に多いイワカゲワラビ、岩隙・岩礫地植物で高山植物とも考えられるヒモカズラ、エゾオトギリ、エゾシモツケ、イワヨモギ、ヤマハナソウ、エゾムラサキツツジ、エゾノクサタチバナ、高山植物のエゾノヒメクラマゴケ、エゾキヌタソウ、エゾムカシヨモギ、南方植物のナガミノツルキケマン、北方植物エゾスズシロなどが含まれている。
 しかしながら、評価書には、希少であっても着目されない植物として、石灰岩地に多いクモノスシダや、高山植物のオクヤマワラビ、エンコウソウ、ミヤマハンショウヅル、カラマツソウ、チシマザクラ、オオカサモチ、コバノイチヤクソウ、コメススキ、ミヤマモジズリなどもリストアップされており、これら希少な植物の出現は非常に高く評価される。上記種のうち、とくにオクヤマワラビは、典型的な高山植物・ツンドラ植物、かつ極めて希少な「氷河期の生き残り」であり、現在まで、北海道では大雪山、日高山脈および知床山系の、とりわけ高標高地にそれぞれ局所的に小規模に知られているにすぎない。従って、本種の低標高地における出現は、国内、あるいは世界の分布を見渡しても極めて特異的で科学的新発見となるので、国内最高点の高い評価が必要である。また、コメススキも典型的な高山植物であり、北海道では高山のほか、低標高地では川湯硫黄山の硫気孔原など特殊な環境下だけに知られており、道路予定地のような低標高の森林地域に出現する例はまだ知られていない。高山植物のチシマザクラやコバノイチヤクソウも、これほど低い標高に出現する例は非常に少ない。従って、これら高山植物の低標高地における出現は非常に高く評価されなければならない。さらに、イワイヌワラビは、普通種ヘビノネゴサの種内変異あるいは別種とされるが、北海道内の分布は非常に限られているので、高い評価が必要である。以上のように、法令等によって指定されていない希少植物であっても、科学的に極めて希な事例を発見した場合には、環境影響評価の対象とするのが当然である。
 他方、私たちの現地調査によると、希少植物として、さらにオオエゾデンダ、ヒメハナワラビ、エゾヒメアマナ、クロミノウグイスカグラなどが追加される。これらもまた、希少な高山植物を多く含み、それらが低標高地に出現した特異な例となる。いずれにしても、大半を森林に被われた地域にかなり多数の高山植物を中心とした希少植物が出現することは、この地域の植物相が非常に特異で、かつ不思議であることを示している。

(2)道路予定地の植生は、多くが自然植生からなり、しかも特殊である

 評価書における植生区分図(植生図)によると、計画路線の多くが二次林や低木群落(いずれも代償植生)、あるいは植林地(人為植生)を通過するように図示されている。また、「北見道路整備における環境保全対策を考える懇談会」の公表資料(以下では単に、懇談会資料と呼ぶ)には、懇談会メンバー辻井達一氏による以下の見解が示されている;「北見が丘から南丘へ連なる一帯は、・・・いわゆる里山としての位置を占める。・・・その樹林はいわゆる二次林であるが、中には若干の大径木を残しており、・・・トンネル部分は、その深度からみて稜線部に多い大径木の生育に影響を与えることはないだろう・・・」。以上の植生区分図と見解は、自然植生、代償植生(二次植生)、人為植生の順序に人為の影響が多くなり植生自然度が低くなることを背景にして、その点で自然林より二次林や人為植生が低い価値しかないこと、その結果、当該地域の森林には低い価値しかないことを述べている。
 しかし、以上の評価書および懇談会資料における記述は、根本的に、多くの過ちを犯している。まず、評価書によると、道路予定地の植生は、自然植生としてミズナラ林、ハルニレ−ヤチダモ林、ヤナギ林および岩礫地植生、代償・人為植生として二次林、低木群落、各種の植林、雑草群落などが分けられており、この点が、前記の見解において道路予定地に自然植生がないように記述されたことと大きな矛盾となっている。また、評価書では樹高16mを境界として自然林と二次林を区分し、樹高6mで二次林と低木群落を分けており、この基準は、以下に述べるように、既存文献、植生生態学の研究成果、そして私たちの観察結果と異なって、非常に恣意的であり、大きな誤魔化しであるとしか言えない。
 第一に、既存文献によると、環境庁(1975年、現環境省)による北海道現存植生図では、当該地域の大半を自然植生の「エゾイタヤ−シナノキ林」で示しており、環境庁第4回植生調査による植生自然度図においても、多くが自然林(自然度9)として図示されている。
 第二に、植生生態学から見ると、北海道の身近な森林地域は、「二次林」に被われた本州の、いわゆる「里山」とは大きな違いがある。宮脇昭氏(1988)は氏の編著「日本植生誌北海道」の中で、そのことを以下のように明瞭に指摘している;北海道低標高地における落葉広葉樹林について、@相観的に(高木層の樹高、優占種などによって形成される外観によって)自然林と二次林の区別が困難であること、A多少人為的影響が加わっていても、群落を構成している種の組み合わせ(種組成)がその土地固有の自然植生とほぼ同じである場合には、自然植生の範疇にまとめられること、それに対してB伐採後に萌芽再生したシラカンバ−ミズナラ林やカシワ林、山火後などに再生したウダイカンバ林などは、自然林と種組成が異なるので、明らかな二次林であること、C本州関東以南の低標高地においては、シイ・カシ類からなる照葉樹林(常緑広葉樹林)の自然林に対して伐採などの人為的影響が続けられた結果、クリ、コナラ、クヌギなど落葉広葉樹からなる二次林に置換され、自然林とまったく異なる相観と種組成を示すこと。
 以上の指摘のように、北海道の低標高地では、伐採をある程度繰り返したとしても、相観、優占種や種組成に大きな差が認められない場合が多い。北海道低標高地にある自然林としての落葉広葉樹林は、皆伐や全面的な火入れの結果、カンバ属(シラカンバ、ウダイカンバ、ダケカンバ)やハコヤナギ属(ヤマナラシ、エゾヤマナラシ)の優占林に置換され、また伐採が定期的に続いた結果、切り株から萌芽再生が可能なコナラ亜属(ミズナラ、コナラ、カシワ)の優占林に置換される場合があるが、それぞれ高木も草本も含んで出現種数が少なくなり種組成が大きく異なっている。しかし、このような人為の影響が比較的少ない場合は、たとえ相観的に樹高が低くなったとしても自然林本来の種組成を持つ場合は、比較的短い間に本来の自然林に戻ることが可能とされ、それも自然林と捉えられてきたのである。ちなみに、環境省(2002)の「新生物多様性国家戦略」では、里山重視を述べる中で、伐採後の明瞭な二次林であるミズナラ優占林でさえ、「手入れをしないでも自然林への移行が一般的であること」を指摘している。まして、樹高が低くなっても自然林と種組成がほぼ同じ森林の場合は、自然林と見なされ、その結果、当該地域の森林は、環境庁の植生図や植生自然度図において自然林として示されてきたのである。
 従って、評価書における植生区分とその区分図、ならびに懇談会資料における辻井達一氏の見解は、自然林と二次林を区分する判断基準を樹高16mと恣意的に設定したこと、本州における里山イコール二次林という図式を北海道に当てはめたこと、これらの結果、当該地域において代償植生(二次植生)の面積を大半部分に拡げた点でこの地域の自然の価値を低く評価したこと、これらすべてが大きな誤りであり、極めて信頼性を欠いている。
 第三に、私たちの実際の調査によると、まず、@当該地域の森林は、多くの範囲が、多少伐採の影響を被って樹高が減じたとしても、豊富な樹種から構成される自然林の種組成を持ち、自然の姿を強く残した自然林に占められている。この地域の森林は、圧倒的にミズナラが多くなった二次林の様相とはまったく異なっている。また、道路予定地の森林は、A通常は山麓・山腹に多いアサダやオオバボダイジュ(モイワボダイジュを含む)が稜線部まで広く分布すること、そしてB通常は山麓や沢筋に多いトクサが林床優占種として稜線部まで多量に出現することが、他地域に認められない大きな特色となっている。ちなみに、道路予定地には、アイヌ語でトクサ(シプシプ、チュプチュプ)が多い沢を意味する「シュブシュブナイ川」があり、アイヌの人々によって古くから「当該地域にトクサが多いこと」が地域の特色として認識されていたと思われる。
 当該地域の森林の特色、すなわち湿潤〜適潤地に生育する植物が斜面上部まで生育する特色については、まことに不思議であり、目下では、比較的急傾斜でありながら地下に十分な水分が維持される機構があるはずとの推測がなされる。この特色はまた、地表面下における水の動きに関わるので、トンネル工事が地表に影響を与えないという先験的な結論は、短絡的な肯定として誤りにつながる危険性が大きい。従って、地表面下の環境について詳細に証明する、新たな調査研究が必要である。
 以上に対して、評価書では、自然林のミズナラ林について1プロットしか調査せず、当該地域の自然林に関してその全体的な特色をまったく示していない。

(3)道路予定地の動物相(ファウナ)もまた、非常に多様である

 評価書では、動物相について、哺乳類15種(着目すべきもの、チチブコウモリ、エゾモモンガ、カラフトアカネズミおよびエゾクロテンの4種、以下同様に列記する)、鳥類67種(オジロワシ、オオワシ、オオタカ、クマゲラ、オシドリ、ハイタカ、オオジシギ、ヤマセミならびにカワセミの9種)、両生類3種と爬虫類2種(エゾサンショウウオ1種)、魚類14種(シベリアヤツメ、ヤチウグイ、イトヨ、トミヨ、イバラトミヨの5種)ならびに昆虫類733種(コエゾトンボ、エゾチッチゼミ、ミズムシ、オオルリオサムシ、カラフトヨツスジハナカミキリ、ヨスジハナカミキリ、ケマダラカミキリ、カラフトタカネキマダラセセリ、カバイロシジミ、ジョウザンシジミ、リンゴシジミ、オオイチモンジ、シオオビヒメヒカゲ、ヌカビラネジロキリガの14種)が示されている。上記の着目すべき動物は、環境影響評価のための調査結果であるので、植物相の場合と同様に、さらなる調査研究によって追加される可能性があり、法令等によって指定されていない希少動物も追加することができる。このような追加を考えない状況でも、当該地域の動物相は、全体の種数が多く希少動物が非常に多い特色がある。
 すなわち、当該地域は、植物相と動物相を併せて、生物多様性の観点から、その価値が非常に高い地域であると結論できる。環境省(2002)の「新生物多様性国家戦略」では、本州に多い二次林主体の里山が、生物種の激減・絶滅防止策にとって重要な対象地であることを明記している。まして、低標高地にありながら多くを自然林に被われる当該地域は、本州の里山以上に、その生物多様性の価値を高く評価すべきである。

(4)道路予定地は、自然林に被われた斜面と自然河川が一体となって、
自然性が極めて豊かである

道路予定地では、国指定天然記念物のオジロワシが生息・営巣している。この希少動物の生息地は、背後を自然林に被われ、しかも営巣できる大木が認められる場所で、さらに餌が豊富な場所を必要とする。スケソウダラが豊富であった時代に羅臼周辺に集中していたオジロワシは、その後、内陸部のゴミ捨て場やサケの「ホッチャレ」が残される数少ない自然河川に飛来していた。そのようなオジロワシは、当該地域において営巣し、おそらく河川の魚類や林内のネズミ類などを捕食できる、良好な生息地を見つけたと考えられる。このことは、当該地域が、「自然林に被われた斜面と自然河川が一体となって自然性が極めて豊かである」特徴を明確に示している。
 一つの生態系において食物連鎖の頂点に位置する肉食動物が豊富なこともまた、その生態系が健全な自然の姿にあることを示している。当該地域には、猛禽類としてオジロワシのほかに、オオワシ、オオタカおよびハイタカが報告されており、他方、大木の腐朽木とそこに棲むアリ類などを必要とするクマゲラ、自然河川の魚類を捕食するカワセミやヤマセミが生息している。このように多様に認められる肉食性の鳥類は、自然林に被われた斜面と自然河川が一体となった、当該地域の素晴らしい生態系に支えられていることは間違いがない。
 ところで、斜面直下を流下する常呂川は、この範囲において自然河川の姿を示しており、当該地域の上流および下流域が農業地帯を通過するため改修工事を被っている姿と対照的である。常呂川の豊富な魚類、あるいは漁業資源となるサケ・マス類の遡上にとって、この範囲の自然河川は、自然林に接した上で、床固めや護岸工事がなされていない点から、魚類に重要な湧水地点として大きな役割を果たしていると考えられる。この点については、河口域あるいは海の漁業とも密接に関わるので、自然河川の状況、斜面から流下する水の動きについては、新たに詳細な調査研究が必要である。

「環境影響評価書」および「北見道路整備における環境保全対策を考える懇談会」における根本的な誤り

 前述1の(1)〜(4)に述べたことを言い換えると、当該地域の自然は、低標高地において特筆されるほど優れている。ところが、評価書では、当該地域の自然を低く見なした上で、着目すべき動植物を列記して、「トンネルであるからそれらに影響が少ない」、「生育地や生息地がルートから例えば100m離れているから影響がない」、「トンネル坑口や橋梁建設の部分における希少植物は『移植』するから保全目標が保たれる」などの、自然環境に影響が少ない、あるいは保全目標が保たれるという結論を導いている。また、懇談会資料においては、道路建設を前提にして保全対策を考える会であるため、常に「自然環境保全に配慮した工法であるから、保全対策を講じるから、道路工事は問題がない」という旨のまとめがなされている。しかし、以下に述べるように、多くの根本的な誤りがある。
(1)ルート選定の誤り

私たちの広範な現地調査によると、北見道路の計画路線は、延長10.3kmに及んで、北見市において最も良好に残された自然の中を通過している。他方、評価書における植生区分図は、計画路線に沿ってのみ作成されているが、周辺を広く含んで作成されるならば、周辺には植林や耕作地などの人為植生が大半を占めていることが理解できるはずである。植生自然度だけから判断しても、何故、最も良好に残された自然をわざわざ通過するようなルートが選定されたのか、極めて不思議である。国土交通省が推進する「エコロード」の考え方を重視するのであれば、自然環境に対する配慮は、何よりもまず、ルート計画の最初の段階において、自然性豊かな地域を避けることから始めなけらばならない。このことは、「エコロード」の背景にある生物多様性条約など、生物とそれらの生育地・生息地の保全において、最も重視されてきた観点である。従って、本道路計画において、上記の観点から代替計画案がまったく示されなかったことは、最も根本的な、大きな誤りとなる。
 他方、事業計画者が公有地の比率が多い方が土地の取得に有利であるから本ルートを選定したとするならば、「エコロード」とは最も離れた本末転倒な、道路を容易に建設する観点だけを考えたといわれても仕方がない。この点については、貴職、二機関が国民に対して懇切丁寧に説明する責任がある。以上は、本計画路線の中止を求める、大きな一つの根拠である。

(2)生息地とそれに対する影響の把握に関する誤り:鳥類を中心にして

 例えば、オジロワシを初めとする猛禽類について述べると、以下の大きな問題がある。評価書によると、オジロワシは、確認された13ヶ所のうち、2ヶ所が計画路線上、11ヶ所が計画路線から50〜5,600mの範囲に確認されており、懇談会資料の全確認位置図によると、計画路線は同種の行動圏にある。
 それに対して、評価書における評価結果は、「計画路線がオジロワシの行動圏の一部を通過することになるが、本種の繁殖期における現地調査では対象区域において繁殖行動が確認されなかったこと、・・・計画路線は採餌場に適する常呂川を橋梁で通過し生息環境を改変しないこと、・・・などから、本種の生息に及ぼす影響は小さいものと予測される。・・・環境保全目標を満足することができる。」と結論づけられている。懇談会資料では、「採餌行動の大部分が常呂川に集中し・・・道路予定地では採餌が確認されなかった、・・・営巣箇所は400m離れているから工事で繁殖活動を阻害しない」との結論が示されている
 しかしながら、環境庁自然保護局野生生物課(平成8年):「猛禽類保護の進め方」によると、「繁殖期の巣への影響とともに、巣以外の場所であっても、対象種が生息する上で特に重要と考えられる場所(繁殖期の採餌場所、巣立ち直後の若鳥の行動圏等)が明らかになった場合には、当該場所への影響についても考慮の上、検討する。・・・行動圏面積等をもとに仮の保全範囲を求めることもやむを得ない・・・ただし、この場合には、猛禽類の行動圏が巣を中心に不定形な放射状に広がっていると考えられることから、単純に巣からの直線距離だけで保全範囲を判断することは避けるべきである」と指摘されている。従って、オジロワシを保護する観点からみると、計画路線は、同種の行動圏に一致あるいは隣接しており、同種にとってその行動圏を最低限の保全すべき地域に該当させるのが当然である。

 同様の指摘は、同じ猛禽類であるオオワシ、オオタカ、ハイタカ、または国指定天然記念物クマゲラにも言える。懇談会資料の猛禽類:巣確認位置図によると、猛禽類の巣とクマゲラの穿孔木は計画路線上にかなり多数示されている。しかし、「ワシタカ類、キツツキ類については、古巣が確認されたことから、これらの繁殖利用の有無を確認することとする」の記述にとどまっている。計画路線がこれらの生息地にあることは明白である。評価書や懇談会資料では、本来移動する動物の確認地点が計画路線とどの程度の距離にあるかが示され、行動圏などの生息地において営巣場所など生息で重要視される場所からの距離が影響評価の大きな根拠とされている。そのため、計画路線は、多くの希少鳥類の生息地に当たるにもかかわらず、それらの生息に影響がないとの結論が導かれている。
 しかし、工事中および道路完成後の影響を排除する対策について、評価書と懇談会資料に、種々の技術的な方法が示されているが、影響しないという生物側の反応、生態学的な根拠が示されておらず、その後に影響が続かないという保証もない。懇談会資料によると、工事中の騒音・振動軽減の対策を講じると記述されているが、軽減策だけであり、それらの対策が希少な鳥類の生息に影響を及ぼさないという生態学的な根拠が示されていない。同様に、工事中の汚濁水に関する対策が講じられるが、それが河川の魚類へどのように影響せず、それを捕食する鳥類にどれだけ影響しないのか、明快な根拠が示されていない。工事用取り付け道路は、計画路線のほかに設けられるが、その影響について全く触れられていない。また、完成後の排気ガス・騒音・照明などが希少動物の生息に影響を及ぼさないという根拠が示されていない。さらに、行動圏など生息地の中にある道路は、鳥類を初めとした動物のロードキルが問題視されており、その解決は容易でない現状にある。以上の種々の影響について、保全対策を講じ自然に配慮した工法であるから生物各種に影響がないという結論には、生態学的な根拠が示されず、その後の保証がないのである。

(3)実際の生育地・生息地からの移植は、保全生物学上、大きな誤りである
 :ニホンザリガニ、希少植物およびエゾモモンガを中心にして

評価書と懇談会資料では、環境省レッドリストの絶滅危惧U類に指定されているニホンザリガニについて、保全対策として「移植作戦」が考えられている。同様に、計画路線上に位置して影響を受ける、法令上希少な植物についても、いずれも移植可能な種であることが述べられ、「必要に応じ環境保全対策として適切な移植を行う」と結論づけられている。
 しかし、この「移植」は、生物多様性条約や種の保存法において、また保全生物学において基本原則とされる、実際の生育地・生息地を守る対策、「生息域内保全」から最も離れた考え方であり、根本的に、保全対策にならないとの全国的な批判を浴びている。生物の各種は、進化の過程で、それぞれ特異的な生育地や生息地の環境と関係を構築して生活してきた。そのため、「生息域内保全」が重視され、「移植」は生物と環境を切り離すことから批判されてきたのである。他方で、植物園や動物園で減少した個体を増やす対策、「生息域外保全」が次善の策とされているが、「移植」はこの次善策にも該当しない。別途、やむを得ない開発行為においてのみ、種々の影響を緩和する対策として「移植」などのミチュゲーションが考えられる場合がある。しかし、本道路計画は、根本的に、ルート選定そのものに大きな問題があるので、本計画におけるミチュゲーションの先行は、本末転倒の考えとなる。
 以上の「移植」は、生物多様性条約などに示された生物保全の基本原則に反しているだけではなく、移植後の保証が何らなされていない大きな問題がある。希少な植物をその自然な生育地から移植した例は多数知られているが、本来の自然な生育地とかけ離れた場所への移植の結果、枯死させるなど、その後の保証がない現状にある。他方、ニホンザリガニ移植については、懇談会資料に、北海道網走土木現業所北見出張所による移植事例が掲載されている。それは、北見市近隣の置戸町において、砂防ダム工事に伴って約3,000個体のニホンザリガニを移植した例であり、安全な場所に移動させるとして子供たちに移動させたものである。しかし、その後の新聞報道によると、その9割がいなくなってしまった。この事例は、まさに移植後の保証がまったくないことを示している。
 懇談会資料によると、エゾモモンガについて、人工的な巣箱を用意してその利用が行われた調査結果に基づき、生息地を移動させる対策が採られている。この対策も、「生息域内保全」の考え方から最も離れており、本来的な保全にはならない。エゾモモンガは、自然林において樹洞など自然な巣穴を利用するのが、本来の生息なのである。

(4)景観の破壊に関して
現在、北見市街地から南方へやや見上げる当該地域の自然景観は、自然林を主体とした緑の山として素晴らしいものがある。しかし、延長10.3kmの中に多数の橋梁を設けるこの道路計画は、多数の橋梁を市民に見せることに結果し、自然景観としての損失が大きい。そのような景観について、懇談会資料には、「自然環境と調和する緑化対策」や「自生種による郷土樹林地の復元」が述べられている。しかし、トンネル坑口付近などの道路周辺において、まず、自然林が失われることは明白である。次に、急傾斜のトンネル坑口付近などでは危険防止のため、樹木ではなく外来のイネ科草本が植えられるかコンクリートで固めるのが通常であるので、自然環境と本当に調和するのか、まったく保証されない。さらに、現在進められている「在来種工法」は、種子供給の点から北海道の自生種を使用した例がほとんどないので、これまた保証されない。すなわち、自然景観の破壊・損失については、人工物を造る限り、回復不可能と考えるのが常識であろう。

本道路計画は、目的、必要性、効果の上から大きな疑念が生じる

 北見道路の目的は、現時点では、北見市街地を通過する際、渋滞や混雑を避けるために一般国道39号に「バイパス」が必要であると説明されている。事業目的は、膨大な公共事業予算投下を正当化する根拠となるとともに、事業完成後にその事業効果を測定する重要な要素であり、したがって厳密に検証する必要がある。しかしながら、貴職は、事業目的や事業の必要性を十分に説明しているとは、到底いえない。
 第一に、北見市街地の通過にとって、実際には、バイパスを必要とする程の「渋滞や混雑」が生じていない。貴職、二機関は、この点を、明確な資料によって証明する必要がある。
 第二に、貴職は、北見道路は、将来、「北海道横断自動車道」の一部に組み込まれる自動車専用道路となることも想定しているとされる。しかし、上記路線のうち足寄・北見区間を担当する日本道路公団は、同区間について抜本的な見直しを行っている。ところが、この「バイパス」を起点に網走までの間を担当する貴職、北海道開発局網走開発建設部は、自動車道建設の是非をめぐる議論および事業の具体的可能性の有無にもかかわらず、バイパス工事をまず先行させようとしている。この状況は、まことに不思議で異様に感じられるが、貴職、二機関は、何故、バイパスにならないバイパスを先行させるのか、明確な論拠をもって、明快に説明する責任がある。
 第三に、自動車専用道路に関しては、別途、旭川・白滝・遠軽間の工事が先行して北見管内に達しつつあるので、北見と札幌を結ぶ物流は、足寄・帯広を経ない方が容易であると考える。この点を加えると、前述、北海道横断自動車道に関するバイパスは、本来的に、本当に必要性があるのか、また費用対効果があるのか、大きな疑念が生じる。
 近年、無駄な公共事業に対する批判が大きい。本計画は、貴重な自然地域を選んでルートを選定し、事業が周辺環境に与える影響を指摘されることを想定してトンネル工法と橋梁を多数建設することとしている。しかしながら、その結果、建設費は、通常の道路開削とは比べ物にならないほど高まることが容易に予測できる。しかも、私たちは、計画がこのまま進行されるならば、貴重な自然への悪影響を排除できないと考えている。このような現状の中、貴職におかれては、北見道路計画の目的、必要性および効果について、目下の説明はまったく説得力を持たないと解さざるをえず、改めて、明快な説明を求める。

結論

 以上、1と2に述べたように、北見道路が計画されている地域の自然は、非常に高い価値を持つことと、現状の環境影響評価は、その価値を低く見なして価値を失わせる結果に結びつくことが明らかである。現在まで多くの開発行為は、当初予測できなかった希少生物の地域的絶滅など、自然の劣化が明らかである。評価書と懇談会資料には、工事しながら「予測できなかった事態に備える」旨の記述があるが、その表現そのものが、将来、貴重な自然に対する何らかの破壊が生じうることを前提としている。自然の科学的把握が完全な段階にないので、当然、影響評価も曖昧になり、将来の悪影響を避けることができなくなる。貴重な自然を守るには、まず、その地域を避けることが最も肝要なのである。
 他方、3に述べたように、北見道路計画は、一般市民の常識から見ても、説明が不透明で目的・必要性・効果に大きな疑念が生じる。従って、本道路計画は、抜本的な見直しが必要であり、貴職、国土交通省と北海道開発局の二機関には、本計画路線の中止を強く求める次第である。 現在まで、北見道路を担当する北海道開発局網走開発建設部は、本意見書に述べたような論点について科学的根拠を示さないまま、道路建設を拙速に着工しようとする動きが認められる。このことは、時代の要請に応じて自然環境保全を一つの柱としてきた貴職、二機関におかれては、時代に逆行するものと強く批判したい。
 さらに、北見市と同市民におかれては、道路予定地の自然は、市民あるいは道民・国民の学校教育、社会教育の場として非常に大切であり、子孫に残すべき地元の貴重な財産であること、そして、現在のまま工事が着工されるのであれば、それを未来永劫、価値を失ってしまうことを強く認識していただきたいと願っている。

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