2003年9月29日
環境省自然環境局長
林 野 庁 長 官
北 海 道 知 事
(財)日本体育協会会長
小野寺 浩 様
石 原 葵 様
高橋はるみ 様
安西 孝之 様
(社)北海道自然保護協会 会長 俵 浩三
恵庭岳滑降コースの跡地復原を「従来の林相」へ導くため、
適切な植生管理の実施を求める要望書
 1972年の札幌冬季オリンピック開催に際し、滑降コースは支笏洞爺国立公園特別地域内(林野庁所管国有林)の恵庭岳に開設されましたが、1968年当時の厚生大臣の許可条件、「大会終了後は、施設を撤去するとともに、伐採跡地には、早急に従来の林相に回復し得るような方法で植林すること」にもとづき、大会終了後にオリンピック施設が撤去されるとともに、伐採跡地への治山施設の導入と植林・保育が行われました。
 この復原事業は、札幌オリンピック組織委員会の解散に伴い日本体育協会に引継がれ、環境庁(当時)、北海道営林局(当時)、北海道などの指導・協力を得て行われました。そして1987年時点で、土砂崩壊などの災害はなく、植栽木の成長も良好で林冠のうっ蔽も進み、「多くの点において我が国唯一の森林復原の成功例として高く評価される」(「恵庭岳滑降競技場復原工事調査報告書」日本体育協会、1987)として事業が完了し、土地が北海道営林局に返還されました。
 ところで同報告書には残された課題として、「周辺の林相に合わせた柔軟な保育指針が必要」「森林推移過程の中・長期的観察・調査が継続されることが必要である。そして各段階ごと(5年あるいは10年ごと)の森林評価が求められると同時に、この評価に対応した維持・管理技術の再評価も各段階ごとに求められる」と記載されています。
 しかしながら現実には、札幌オリンピック組織委員会の解散に伴う、ある種の無責任体制が発生し、復原対象地の継続的モニタリングとフィードバックのシステムは完全に欠落した状態となったまま、事業完了後15年を経過してしまいました。
 そもそもこの撤去復原の方針は、当協会が1966年に「恵庭岳南西斜面におけるオリンピック施設計画について」の要望書を当時の厚生省に提出、撤去復原を提言したことに端を発しているので、当協会としてはその後の推移に無関心ではいられません。当協会としては1987年以降も時折り現地を訪れ、概括的な観察を行ってきましたが、とくに植栽されたアカエゾマツ(周辺の自然植生にはアカエゾマツがほとんどない)の生育が予想以上に良好で、旧コース上の帯状の針葉樹優占植生が「従来の林相」と異なっていることを懸念していました。
 最近は「自然再生事業」が脚光を浴び、各地で実施されつつありますが、継続的モニタリングとフィードバックのシステムが欠落した恵庭岳の実情をみると、自然再生事業の先行きにも大きな不安が感じられます。そうした中、最近、矢島崇北大教授による「恵庭岳滑降競技場跡地の植生復原ー緑化工事から30年を経て」(日本造園学会北海道支部大会研究・事例報告発表要旨、2003年9月)が発表されました。
 それによれば、「針葉樹の植栽部分はとくに密度が高く、帯状の植栽地が周辺天然林と景観的不調和を生じさせている」こと、落葉広葉樹を含む「植栽木の保育は、自然侵入個体の排除となって結果的にコース内は植栽木による均一で高密度な林分となり、周辺との不調和が際立ってきている」こと、「地表の安定をはかる緑化基礎工と草本緑化を経て、樹木による被覆を終えた今、景観的不調和や自然植生の復元に向けて、さらにどのような技術投入があり得るのかを検討すべき段階に至っている」ことなどが指摘されています。
 すなわち恵庭岳の植生復原は、残念ながら現時点では、「従来の林相に早急に回復し得る」という許可条件に沿う方向には向かっていないのが実態であります。
 したがって環境省、林野庁(北海道森林管理局)、北海道、日本体育協会などの関係者は緊密に協力し、早急に恵庭岳の植生復原の現状を調査・把握するとともに、「従来の林相」に回復するために必要な植生管理手法を検討し、責任体制を明確にした上で、その対策の早期実施を行うよう、強く要望いたします。
閉じる