2003年6月19日
(社)北海道自然保護協会 会長 俵 浩三
「大規模林道事業の建設予定区間の今後の整備のあり方」についての意見書
1. 今回の「ありかた検討委員会」が事業実施の妥当性及び代替案の可能性について区間別に検討することについて、以下の理由から、当協会は大きな問題と捉えており、検討委員会は各路線の全体にわたって是非を検討すべきと考えます。
(1)「大規模林業圏開発計画」に基づく大規模林道事業は、高度成長下における全国的な総合開発計画の一環として生まれ、この30年ほどの間に、林業を目的とする車道としては異常に大規模な道路規格、余りにも多大な自然破壊、環境アセスメントの不備、莫大な建設費用と低い進捗率、地元移管後の維持管理に関する地方自治体の財政負担などの観点から、全国各地から種々の大きな批判を浴びてきました。平成10(1998)年から、貴庁は、国の公共事業見直しの一環として大規模林道事業の「再評価」を実施しました。しかし、その見直しは、路線ごとではなく路線の中の区間別に行なわれ、北海道の大規模林道では、わずかに「様似・えりも区間」、「滝上・白滝区間」および「足寄・阿寒区間」の3区間だけが見直されただけに終わりました。今回、意見が求められている区間は、その際に十分な説得力を持たないまま、休止や中止の評価がなされなかったものです。先の見直しや今回の意見聴取が、路線全体を対象にしないで、各路線を分断した建設予定区間だけを対象とする貴庁の対応には、大規模林道事業に対する全体的な批判をかわそうとする姑息さに似たものが感じられます。まず、この点を当協会は大きな問題であると判断します。ところで、貴庁は、今回の意見聴取において「区間別に、あり方検討委員会に報告しますので、どの区間に関する意見なのか分かるようにしてください」と述べております。当協会が述べる意見は、以下に続けて述べますように、各路線・各区間に共通する重大な問題点を含みますので、たとえ個別の区間を対象にした検討であったとしても、この意見書の内容をまったく省略せず全文を委員会に報告されますよう、お願いする次第です。
 (2)林野行政、とくに国有林は、過去の林業が盛んであった時代から、大規模な観光開発を目的としたリゾート法・森林の保健機能の増進に関する特別措置法の時代を経て、現在、林業やリゾートよりも「災害防止、水源涵養などの水土保全、また生物多様性保全など、森林の有する公益機能の重視」に方針を転換したと承知しております。大規模林道事業は、一方で「莫大な建設費用を必要とする無駄な公共事業」として見直しが求められておりますが、他方で「貴庁で重視する森林の公益機能を大規模に破壊する開発事業」であるため、「すでに破綻した時代錯誤の事業」であること、当協会は、この点を第二の大きな問題であると判断します。
 (3)また、森林の公益機能を重視している貴庁は、貴庁みずからの開発行為に関する環境アセスメントにおいては、とりわけ緻密な調査とそれに基づく慎重な影響評価が求められると考えます。ところが、貴庁による環境アセスメントにおいても、いままで各機関が行ってきた開発行為における環境アセスメントと同様に、計画された全地域を小地域に分断してアセスメントをしないか、アセスメントをしたとしても極めて杜撰に行ない、工事着工を優先し、自然を破壊してきたと判断しております。これは、現在の林野行政における方針とまったく矛盾する事態です。当協会は、この点を第三の大きな問題と判断しております。
 (4)以上の総論的考察から、当協会は、大規模林道事業そのものに大きな疑念を持っており、現在の林野行政においては即座に廃止すべき事業と考えます。
2. 今回、北海道において意見聴取が求められている区間は、@平取・えりも線の平取区  間、A同路線の様似区間およびB置戸・阿寒線の置戸・陸別区間の3区間です。これ  らの区間は、いずれも比較的標高が低い「中間山域」として、過去の林業などの影響  を多少とも被っております。貴庁の取りまとめ表によりますと、3区間ともに「事業  の必要性」と「自然公園など(の保護地域)に指定されていないこと」はかなり明確  に記述されております。しかし、その取りまとめには、道路建設時あるいは建設後のデメリットである土砂崩れや河川流域への影響、希少な野生生物への影響、あるいは生態系への全体的な影響、さらには地元自治体の財政負担などについては、ほとんど触れられておりません。そこで、以下の問題点を指摘いたします。
 (1)2路線・3区間は、ともに北海道では比較的古い地質から形成され、かつ急峻な地形に特徴づけられます。そのために、道路建設は、道路の両側に広面積の法面を造ることになり、土砂崩れや地滑りのような災害が生じやすく、流域生態系への影響が大きいことが容易に予測されます。貴庁は、すでにA平取・えりも線の様似区間とB置戸・阿寒線の置戸・陸別区間に関して、大半の地域を「水土保全林」に指定していることは、みずから銘記すべきであると考えます。それでも道路建設を考えるのであれば、道路災害、流域生態系への土砂流入など、道路建設中あるいは建設後の自然への影響が住民生活への直接的な影響となりますので、明白に予測すべきです。また、地元移管後、災害復旧や除雪などに関する地方自治体の費用負担についてもそれらの予測を明らかにすべきと考えます。
(2)現在、国内では標高が低い「里山」の自然と生物多様性が極めて重要であることが強く認識されております。そうした中で、北海道の3区間は、本州以南の里山に比べますと、いずれも「山間の住民数が非常に少なく、植生自然度がはるかに高い特徴」があります。しかも、@平取区間とA様似区間を含む「平取・えりも線」は、原始性が高く国立公園を含んで国内第8位の面積を有する日本最大の国定公園、「日高山脈襟裳国定公園」を背後に連続させる広大な森林地域を縦断し、またB置戸・陸別区間を含む置戸・阿寒線は、大雪山国立公園と阿寒国立公園を連結する、貴重な「緑の回廊」を横断します。大規模林道は、既存の林道とはまったく異なって、とりわけ急峻な地形からなる地域では、車道幅員と法面を合わせた直接的工事だけで幅300mを超える場合が生じ、さらに保全生物学の上から重視されている道路周辺の「エッジ効果」を考え合わせますと、3地域ともに、大規模な道路規格が野生動植物に与える影響は多大であり、動物の移動障害や侵入生物の問題が生じると容易に予測できます。さらに、@平取・えりも線の平取区間において、幅員7mの車道建設を予定しながら、「既存林道の改良であることの委員会における確認」には、大きな誤魔化しと捉えます。
 (3)自然への影響について、取りまとめ表では、A平取・えりも線の様似区間とB置戸・阿寒線の置戸・陸別区間ではそれぞれ北海道環境影響評価条例と環境影響評価法に基づく環境アセスメントの必要性と、3区間におけるレッドデータブックに掲載された希少野生動植物としてナキウサギやクマゲラの生息ならびに希少猛禽類の生息可能性だけが触れられております。しかし、貴庁による環境アセスメントは、@平取区間とA様似区間を含む平取・えりも線では今回の対象区間ではない「様似・えりも区間」ですでに行なわれておりますが、@平取区間ではまったく行なわれず、道条例に基づくアセス対象区間とされるA「様似区間」ですらまだ行なわれておりません。前項で述べた里山重視の観点から@平取・えりも線の平取区間を見ると、貴庁がそこを「資源の循環利用林」と位置づけたとしても、環境アセスメントが必要であることは明白です。他方、環境影響評価法の対象となるB置戸・阿寒線の置戸・陸別区間における報告書は極めて概略的な調査結果に終わっております。3区間ともに、取りまとめ表に書かれている動物はもちろんのこと、植物には動物以上に多数の希少種が含まれることは確実です。取りまとめ表には希少な植物がまったく示されておりません。逆に、取りまとめ表に指摘された「希少猛禽類の生息可能性や、クマゲラとナキウサギの生息」についても、十分な調査行なわれたとは、決して言えません。従って、林野庁みずからの方針である、公益機能(そのうちの生物多様性の保全)の重視に合わせて、3区間ともに慎重・綿密な環境アセスメントを行ない、それらの結果を十分な期間にわたって公表して意見を聞き、改めて自然の価値と自然への影響を慎重に評価すべきと考えます。
 (4)A平取・えりも線の様似区間とB置戸・阿寒線の置戸・陸別区間では、事業の必要性として「交通ネットワークの形成に寄与すること」が強調されております。大規模林道の建設が始まった当初、大規模林道の起点・終点を道道や国道に結んで多機能的に使用することが一つの目的として謳われておりましたが、それは決して主目的ではなかったと捉えております。他方で、林業を目的とした林道は、林業が盛んな時代であっても既存林道の小規模な規格で目的を達してきましたので、新たに幅員7mに及ぶ大規模な林業用車道は不要と考えます。林業発展を主目的とした当初と比べますと、現在は、大規模林道という車道建設そのものが目的化したと判断しております。すなわち、大規模林道事業は、その「目的」と「必要性」に関して大きな疑念が生じます。しかも地元財政負担や使用頻度を考え合わせた道路建設の「効果」についても疑念が生じますので、慎重な評価が必要と考えます。
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