2003年5月28日
北海道開発局事業審議委員会  委員長 小林 好宏 様
(社)北海道自然保護協会 会長 俵 浩三
開発道路としての道道静内中札内線(日高横断道路)の事業再評価に際して
事業目的や効果を厳格に審議し「建設中止」の結論を導くこと求める要望書
 このたび貴事業審議委員会では、道道静内中札内線(以下、日高横断道路という)について、抜本的な事業再評価を実施することになったと承知しておりますが、当協会ではこの道路が計画された1979年当時から建設に反対してきましたので、このたびの事業再評価は歓迎すべきことと考えます。
 貴事業審議委員会では1999年1〜2月に日高横断道路の再評価を実施し、事業継続を決定しました。そのことを知った当協会では、1999年に現地調査を行うとともに再評価の内容を検証した結果、きわめて問題の多い再評価だったことが判明しました。そこで北海道開発局長(国土交通大臣)に対し、2000年2月3日、2001年2月23日、2002年1月22日の3回にわたり、「抜本的再評価のやり直し」を要望してまいりました。
 それと同時平行的に、当協会では北海道知事にも「抜本的再評価のやり直し」の要望を重ねるとともに、8回の文書による質疑応答を行なった結果、ついに知事は、日高横断道の矛盾点について説明不能に陥りました。そのことが要因となり、また財政事情が逼迫していることも要因となり、知事は2002年6月に日高横断道路の「抜本的な見直し」を表明し、北海道の「特定政策評価」に位置づけて審議した結果、本年2月に北海道管理部分の「凍結」(当分、新規の改築工事は行わない)を正式に表明いたしました。
 そもそも日高山脈は日本最大の原始的自然環境を誇る地域で、その心臓部には道路を建設すべきでなく、当協会は1979年当時から「日高の原始的自然を傷つけず後世に伝えるのが道民の責務」と主張してきましたが、その価値観は近年いっそう高まっています。知事は日高山脈について、世界遺産も視野に入れた北海道遺産として保全する構想も表明しました。知事が事実上の建設中止を決断したのは、21世紀の価値観として当然のことです。
 知事との文書による質疑応答などを通じて顕在化した日高横断道路問題の要点は、下記のとおりですが、これらは1999年の事業審議委員会ではまったく論議されずフリーパスしていた事項です。しかし今回の事業審議委員会では、問題点が提起されたのですから、これを受けとめ、きちっと論議し、見解を明らかにしていただく必要があります。
 これらの問題提起は、当協会が2002年11月13日づけ北海道政策評価委員会に提出した、「道道静内中札内線(日高横断道路)の『特定政策評価』に際しこの事業の妥当性・必要性などを客観的かつ厳格に審議することを求める要望ならびに意見書」(別添)に詳しく記載されていますので、具体的な内容説明および裏付けとなる資料はこれを参照してください。ただし北海道の特定政策評価は「開発道路」部分を評価対象外としたため、ここで問題提起されたことは、残念ながらほとんど論議されませんでした。
 しかしながら開発局の事業審議委員会は、開発道路部分の再評価をするのが本務です。したがって私たちの問題提起を、どのように認識し、どのように評価するのか、事業審議委員会としての見解を明確に示した上で、「建設中止」の結論を導いてくださるよう、お願い申しあげます。
資源開発と広域幹線の二重帳簿
 建設大臣(1981年当時)が日高横断道路を開発道路に指定した公式理由は、沿線の農林業など第一次産業の「資源開発」となっているにもかかわらず、行政はそれを過去20年間も道民の前に明らかにせず、資源開発に言及しないで、もっぱら道央と道東を結ぶ「広域幹線道路」であると説明してきたこと。すなわち、道民向け説明と行政内部の公式な理由づけが異なる、二重帳簿方式の公共事業である実態が明白になったこと。

公式目的の資源開発に役立たず
 公式目的は資源開発であるにもかかわらず、現実の日高横断道路沿線の大部分は、地域住民のいない国有林地帯で、農業・畜産業ができず、国有林の経営も木材生産を主目的としておらず、沿線の農林業の資源開発にはまったく役立たないこと。そのことを指摘された知事は、日高横断道路は沿線の農林業の資源開発に「寄与する道路である」と強弁するものの、資源開発が可能となる具体的な根拠を示せず、説明不能に陥っていること。

時代の変化で用済みの開発道路
 開発道路制度は、第二次大戦後の「国民経済の復興」および「人口問題の解決」(外地引揚者や復員軍人の受入れ)に役立てるため創設されたもので、道路法(第88条)および建設省が定めた「開発道路選定基準」(1954)により「資源開発のため必要な道路」が選定されることになっている。しかしそれは1960年代の高度経済成長時代に役割を終えたので、開発局では「広域幹線道路」を包含する新しい「開発道路選定基準」(1966)を策定・運用し、日高横断道路もそれによって開発道路に選定されたこと。ところが開発局による新しい選定基準(1966)は、行政内部の非公式な運用で裁量の範囲を超えているため、公式には建設省による古い選定基準(1954)を適用して、大義名分を保たなければならない実態に陥っていること。
 すなわち(1)〜(3)を総合すれば、開発道路としての日高横断道路の建設目的は、時代の変化により喪失し、道路整備による資源開発効果も発揮できず、21世紀に延々と継続する意義はなく、直ちに中止すべき不適正な公共事業であること。

費用対効果が低い公共事業
 日高横断道路は、日高山脈を横断する5本目(既存道路として狩勝峠、日勝峠、天馬街道、黄金道路の4本)ないし6本目(計画段階の夕張〜十勝清水の高速道路を含む)の道路であり、これを整備しても費用対効果がきわめて低いこと。
 現実の問題として、開発局が1999年に実施した再評価における費用便益計算は、北海道管理区間の整備費を無視したものなので、誤った数値となっていること(北海道管理区間の整備費を加えれば「1.0」を下回ることが確実)。

日高の自然を守る視点が欠落
 日高山脈の自然は、その原始性の価値が国内最高レベルのものとして評価されていること。知事は「日高山脈の自然を北海道の自然遺産ないし世界遺産としたい」との意向を表明したにもかかわらず、21世紀の北海道の自然の望ましい姿として、日高山脈の自然をどう認識し、どう保全するかの論議が欠落してきたこと。
 また日高山脈のきわめて貴重な植生や河川環境は、行政による日高横断道路の「環境アセスメント」において無視・軽視されてきたが、実際には、想定外に大きく傷つけられ、生態系の撹乱が著しいこと。
(付記)
 北海道知事は、日高横断道路の北海道管理部分について「建設の意義は変わらないが、多額の費用と長い時間を要する」という理由で、「凍結」を表明しました。凍結は、将来いつか再開できるという含みをもっていますから、「建設の意義がある」ことが前提となります。ただし学識経験者からなる第三者機関の北海道政策評価委員会の答申では「道路の必要性、妥当性」は「低下しているとの認識を共有する必要がある」と明記され、北海道管理部分の建設の意義に否定的見解が示されています。
 学識経験者からなる第三者機関の事業審議委員会で、開発道路部分についてもしも「凍結」あるいは「継続」という結論が導かれるなら、「建設の意義がある」ことが前提となりますから、事業審議委員会として、@「資源開発」と「広域幹線道路」という二重帳簿方式の公共事業が適正であるとする根拠、A地域住民のいない国有林地帯の沿線で農林業の資源開発効果が発揮できるという根拠、B戦後の経済復興のため設けられた開発道路制度が、時代の変化で用済みとなったにもかかわらず、21世紀に延々と継続することが妥当であるとする根拠、 C費用対効果が「1.0」を下回ることが確実な公共事業が適正であるとする根拠、D日高横断道路の建設は、日高山脈の自然を傷つけることなく、「自然遺産」など将来の保全に支障をきたさないという根拠などについて、別添資料で指摘した諸項目も含め、道民が納得できる明確な客観的理由を示して、説明責任を果たすことが不可欠であることを申し添えます。
 なお当協会を含む自然保護4団体は、本年4月17日、事業審議委員会あて、「日高横断道路(道道静内中札内線)の事業再評価に際して審議会を公開するとともに関係者から意見を聴取する場を設けることを求める要望書」を提出いたしましたが、その要望の趣旨に沿って、審議会を公開するとともに、関係者からの意見聴取の場を設けてくださるよう、重ねてお願い申しあげます。
 また北海道内では日高横断道路以外の17路線で、開発道路の建設事業が進行中であると承知しておりますが、これらはいずれも日高横断道路のような事業目的と効果の矛盾点を抱えていると思われますので、貴事業審議委員会の責務として厳格なチェック機能を果たされるよう、併せて要望いたします。
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