北海道新聞社 社長 近藤 英夫 様
 「花フェスタ」実行委員会 御中
2003年11月25日
(社)北海道自然保護協会 会長  俵 浩三
「花フェスタ」における希少植物・高山植物の販売に関する要望書
貴新聞社・貴実行委員会に対して、当協会は、数年前、北海道の希少植物・高山植物の盗掘が著しい現状をお伝えし、「花フェスタ」におけるそれらの販売に関して慎重な対応を求めました。その際、当協会は、意見・要望書などの書面を提出しませんでしたが、当時の担当責任者の方は、翌年から「高山植物を目玉とするコーナー設置」の中止という、心ある対応をしていただきました。
 1993年、「生物多様性条約」が批准され、その国内法である「種の保存法」が制定されました。それ以来、国内では年々、絶滅に瀕する希少野生植物に関して実効ある保護策を求める世論が高まっております。そうした社会状況において、貴新聞社・貴実行委員会が催す「花フェスタ」は、野生植物の重要性を一般市民に広く啓蒙する絶好の機会と考えます。ところが、その現実はまことに遺憾ながら、希少植物を販売する場面において、今なお北海道の希少植物が実際の生育地では悲惨な現状にあることにまったく無関心・無意識であり、逆に、販売されているのだから採取しても良いと考えさせ、盗堀助長の懸念さえ与えていると判断します。ここに、その理由を述べ、要望書を提出させていただきますので、貴新聞社および貴実行委員会には、本要望書を真摯に受け止め、心あるご返事と来年度以降の説得力ある対応をお願いする次第です。
.希少植物の現状、総論として
 国内の希少植物は、主に二つの原因、「盗掘(園芸用採取)」と「種々の開発行為による生育地の破壊」によって、「絶滅寸前」のもの、産地によって絶滅した「地域絶滅」のもの、すでに「絶滅」したものが増加中です。とくに希少植物を多数含む高山植物は、それらの生育地がほとんど既存法令による保護地域にありながら、ほとんど「盗掘」によって大きな影響を被ってきました。
 1993年の「生物多様性条約」の批准と「種の保存法」の制定前後から、希少野生植物に関する各種のレッドデータブックが作成され、国内、道内ともに約2割の野生植物が危険な状況にあることが分かってきました。それに関して、種の保存法により、国内では僅かな植物が指定され、北海道ではレブンアツモリソウ、ホテイアツモリ、アツモリソウの3種類(アツモリソウという1種の種内変異)が指定されただけに終わり、その後10年を経過しております。ここには、法令が制定されたが、実際に保護指定種が非常に少ないという大きな欠陥が認められます。その背景として、種々の開発行為において多数の「指定種」が邪魔になることから、また野生植物をすでに栽培・販売・流通している愛好家や産業があることから、当時の環境庁と関係他省庁との調整が得られなかった経緯が知られております。
 希少植物に関して、「野生植物は野に置け」という、希少植物の盗掘を防ぎ実際に保護する考えからあらゆる植物を対象にした栽培・販売・流通に疑念を持つ考え方と、「栽培は文化である」または「盗掘によらない栽培品の販売・流通は一つの産業である」という考え方が、1993年当時から対立していました。しかし、結果的には、後者の考え方が勝り、種の保存法による指定種はすべて、販売・流通を認めた上でそれらを監視する「特定希少種」になりました。この対応は、後述しますが、前者の考え方からの批判だけではなく、後者の考え方からも批判される折衷案でした。
 問題の根本は、いまだに実際の生育地において希少植物が減少し続けている事実です。例えば、種の保存法による「特定希少種」であるアツモリソウ類3種類でさえ、北海道では以下の状況にあります。レブンアツモリソウは、囲い込み区や監視小屋から見える範囲を除いて、盗掘が進み激減しました。ホテイアツモリとアツモリソウは、皮肉にも指定後でも多くの山岳でほぼ絶滅または絶滅という「地域絶滅」が進行しました。それは、種の保存法による指定が「特定希少種」だけの指定に終わり、一方で監視活動が困難な山岳地域からの「盗掘品」が「栽培・流通品」に混在し続けたからと言えます。実際には、「高価で販売されているから、見つからずに採取さえすれば大きな儲けになる」という風潮が続いたのです。まして、レッドデータブックに掲載されたが、法令によって指定されない希少植物については、実際の生育地における激減状態から判断すると、盗掘され続けたことが明白です。
 2002年「北海道希少野生動植物保護条例」が制定され、まず植物から指定が始まりました。道条例でも「種の保存法」に準じて「特定希少種」の考え方が持ち込まれ、現実的対応として、それを単なる「希少種」より強固な対応と考えたように思われます。それに対して、希少植物ほど栽培したいという考えに疑念を持つ立場から「実際に保護するためにはいったん栽培禁止とする植物があっても良い、栽培品の栽培・販売・流通が公けに認められた」という批判と、栽培・販売・流通を主張する立場からは「すでに安価に販売・流通されている植物には販売・流通の監視は不必要である」という批判が生じました。結果的には、販売・流通面の経済的価値判断に基づいて、道条例による指定は、特定希少種と単なる希少種が半々の結果になりました。道条例によって「特定希少種」はヒダカソウ、キリギシソウなど、「希少種」はレブンソウなど、合計12種が指定されている現状です。問題はヒダカソウに象徴されますが、いまだに盗掘が止まない事実です。
 種の保存法や道条例に関連して、実際の生育地で希少植物を保護し続けるためには、どこまでも「実効ある対策」が重要です。そのためには、実際の生育地における「盗掘防止のための監視対策」と、市民生活の中で「盗掘品を栽培流通品に混在させない体制づくり」が必ず必要です。前者に関しては、地元NGOによって非常に熱心な保護活動が続けられ、それを含む官民による保護協議会が設置された地域が増えてきましたが、ボランテア任せを主対策としてはなかなか盗掘を防ぐことができない現状にあります。後者の「盗掘品を栽培流通品に混在させない体制づくり」については、盗掘品を扱う個人や悪徳業者は「現行犯」以外には捕まらないので、まだまだ不徹底な段階にあります。
 販売・流通において、栽培品だけを扱う良心的な個人や業者には、法的にはまったく責
任がありません。しかし、希少植物の保護と利用という表裏性から、上記の人々にも「実
際の生育地における減少、絶滅」が決して無関係とは言えず、栽培文化や産業であるとい
う主張だけでは道義的責任は果たせないと考えます。法的にも行政的にも希少植物の利用
が先行して実質的な保護がないがしろにされている日本の社会状況では、希少植物を扱う
人々はすべて、絶滅を回避するためにあらゆる知恵を結集し、具体的行動を起こす必要が
あると考えます。
 実際、栽培愛好家団体が栽培技術によって実際の生育地でホテイアツモリの個体数回復を行なっている地域があります。また、レブンアツモリソウについては公的な希少植物保護増殖事業が行なわれ、クローン増殖が進められております。しかしながら、レブンアツモリソウでは、実際の生育地において自然に繁殖する場合と異なり、増殖個体の露地植え段階で病気に感染する危険性と少数個体に由来するクローンが自然集団の遺伝子構成をかく乱する危険性から、増殖個体を自然の生育地に戻すことができないと判断され、元来生育していなかった場所に植えられている状況です。生物多様性条約・種の保存法・北海道希少野生動植物保護条例において一貫して重視されていることは、「実際の生育地保護(生息域内保全)」にあり、ムニンノボタンやトキのように最後の1個体になった「野生絶滅」の場合に、補助的手段として「植物園や動物園などでの増殖(生息域外保全)」が考えられております。これら法令の主旨は、長い進化の場であった実際の生育地・生息地の保護を最重要視しています。そのため、個体数の回復策においても、生育地における自然な繁殖を促すことが基本となり、バイテクや栽培技術を使用した増殖は最後の補助的手段と考えられております。
 ここには、自然であることと文化の違いに似た、基本的理念の相克が含まれております。しかしながら、自然たる自然(野生生物としての希少植物)と文化的側面(園芸化された希少植物)を完全に区別できない段階は、実際の生育地における希少植物・高山植物の悲惨な状況を保護・回復できない、解決困難な、やっかいな状況にしております。当協会は、植物の栽培文化を全面否定するのではなく、希少植物ほど、絶滅に瀕する植物ほど栽培したい・それを販売・流通させて儲けたいという、栽培の悪い側面に目を向けながら、何よりも実際の生育地を保護する実効ある方策を模索しております。
.今夏6月28日から7月6日まで開催された「花フェスタ」大通り会場において販売されていた希少植物・高山植物

@高価に販売されていた、世界で北海道、本州などに限られた希少な高山植物:キタダケソウ(北岳草、6,000円、北岳に限られた本州固有種、種の保存法指定種)、ヒダカソウ(日高草、2,000~4,000円、アポイ山塊に限られた北海道固有種、道条例指定種)、キリギシソウ(崕草、2,500円、夕張山系崕山に限られた北海道固有亜種、1989年に命名されその3年後に大量盗掘された、道条例指定種)、ヒダカゲンゲ(日高ゲンゲ、3,000円、日高山脈に限られた北海道固有種)、エゾオヤマノエンドウ(蝦夷オヤマノエンドウ、800円、大雪山系に限られた北海道固有変種)、シレトコスミレ(知床スミレ、1,200円、知床山系に限られた北海道固有種)など

A高価に販売されていた、他の高山植物:ウラシマツツジ(2,000円、北極を取り巻くツンドラ地帯と中緯度の高山に生育する典型的な高山植物、北海道の高山では比較的普通に見られるが、盗掘対象となっている、栽培増殖に時間がかかるので高価という)、ヒメイソツツジ(姫イソツツジ、1,500円、北極を取り巻くツンドラ地帯と中緯度の高山に生育する典型的な高山植物、北海道では大雪山系高山帯と道東の高層湿原に限られ、大雪山系では昔から盗掘が絶えない)、千島エゾツツジ(2,500円、北海道からカムチャッカなど北太平洋地域に分布する高山植物エゾツツジのうち、千島産のものは木本として立ち上がる性質を持つとして、北海道産エゾツツジ500~800円に対して高価に販売されている)など

B500〜800円と比較的安価に販売されていたが、北海道の極めて希少な植物:エゾマメヤナギ(蝦夷マメヤナギ、大雪山系の一部に限られた北海道固有種)、リシリヒナゲシ(利尻ヒナゲシ、利尻岳に限られた北海道固有種)、メアカンキンバイ(雌阿寒金梅、北米に近縁種があり、南千島にもあるほぼ北海道に固有な高山植物)、チョウノスケソウ(長之助草、北極を取り巻くツンドラ地帯と中緯度の高山に生育する典型的な高山植物であるが、北海道では数ヶ所の産地のほとんどで古い昔から著しい盗掘によって実際の生育地では地域絶滅が進んだ植物、現在は外国産のものを含んでどの産地の植物から増殖したのか分からなくなっている)、レブンソウ(礼文草、礼文島に限られた北海道固有種、道条例指定種)、リシリゲンゲ(利尻ゲンゲ、北海道の3ヶ所ほどの産地に限られた北海道固有種)、チシマゲンゲ(千島ゲンゲ、ユーラシア大陸の高山に広く分布するが、北海道高山帯では比較的希少な高山植物)、レブンサイコ(礼文サイコ、北東アジアの高山に分布するが、北海道高山帯では比較的希少な植物)、エゾノゴゼンタチバナ(蝦夷ゴゼンタチバナ、北極を取り巻くツンドラ〜タイガ地帯と中緯度の高山や高層湿原に生育する高山植物であるが、北海道では道東の高層湿原を中心に、一部高山帯にも隔離的に分布している、古くからの盗掘によって実際の生育地では青息吐息の状況にある)、ハクサンシャクナゲ(またはエゾシャクナゲ、矮小となる種内変異として襟裳シャクナゲと呼ばれる、襟裳岬付近に生育していたが、園芸的に珍重されたことから盗掘が進み、実際の生育地では壊滅状態になっている)、エゾハナシノブ(蝦夷ハナシノブ、比較的希少な高山植物)、リシリリンドウ(利尻リンドウ、北東アジア地域に分布する高山植物で国内では北海道の3、4ヶ所の産地しかない希少な高山植物、とりわけ夕張岳では盗掘によって壊滅状態になっている)、ユウバリアズマギク(夕張アズマギク、高山植物ミヤマアズマギクに含む見解とその変種ユウバリアズマギクとして夕張岳に限られた固有変種とする見解がある、いずれにしても国指定天然記念物の夕張岳に由来する植物)など

C500〜800円と比較的安価に販売され、北海道高山を全体的に見た場合に、比較的普通に見られる高山植物:ガンコウラン、コマクサ、イワヒゲ、アオノツガザクラ、キバナシャクナゲ、エゾツツジ、コケモモ(西別コケモモとして区別されたものが販売されている)、ツルコケモモ、イソツツジ、シラタマノキ、ミネズオウ、ミヤマアズマギク(蝦夷アズマギク)など

D道外の希少な植物:イワキンバイ(屋久島イワキンバイ、日本固有種、北海道から九州まで分布し比較的普通に見られる岩地の植物、そのうち世界遺産の屋久島が南限の産地に当たり、その産地名を冠することによって園芸的換金価値を高めて販売され、屋久島の実際の生育地・南限の産地に影響している)、ミチノクコザクラ(陸奥コザクラ、本州東北地方岩木山に限られた高山植物、エゾコザクラの本州固有変種)など
問題点と要望項目
 希少植物・高山植物の販売において、元々、既存法令による保護地域に由来した植物の栽培増殖品であるから、また希少植物・高山植物の販売がそれらの盗掘を助長するから、販売自体を許しがたいという意見や、栽培・流通を認めたとしても盗掘品が混在しているのではないかという疑念が、当協会会員から強く出ております。一般の方にとって、現状は、販売されているなら実際の生育地から採取しても構わないだろうという、安易な誤解が生じやすい段階にあると思います。従って、希少植物・高山植物については種の保存法や道条例による指定種を初めとして、前項2に挙げた植物はほとんど、極めて慎重な扱いが求められると考えます。以上の全体的な要望に加えて、以下に具体的な問題点を指摘し、それぞれの要望を列記します。

@前項2に列記した希少植物・高山植物のうち、とくに「高価な希少植物」はとりわけ希少で、危険な状況にある絶滅危惧植物に当たります。その販売が、道内最多の人々が参加する「花フェスタ」において行なわれることは、多くの人々を容易に盗掘に向かわせてしまう危険性がありますので、「花フェスタ」の影響は大きいものと判断しております。
少なくとも「高価な希少植物の販売」については関係する業者に販売自粛をさせることを強く要望します。ちなみに、種の保存法や道条例において希少植物の絶滅を防ぐために設けられた「特定希少種」の主旨は、そもそも「安価で多量に販売・流通されると実際の生育地から盗掘が止むだろう、それしか盗掘防止の良策はない」という現実的な考え方によっています。従って、なかなか増殖が困難で、一般の人々にとって栽培が容易でないため購買後まもなく枯らしてしまい、高価のままにある希少植物・高山植物は、それらの販売自体が問題視されます。それに対して、そのような希少植物・高山植物ほど高価であるため経済活動の対象にされ続けているのが実情です。

A植物分類学では細分されていない植物名、しかも地名を冠した植物名がかなり使われております。例えば、「花フェスタ」で販売されていた「西別コケモモ」は、コケモモの中で果実が大きく美しいという園芸的鑑賞価値から山草愛好家が細分した名称のようです。しかし、通常では盗掘される例が少ない、比較的普通にある高山植物コケモモが、道東の西別岳では、この名称によるプレミアムのために盗掘が進み激減しております。山草愛好家が「珍奇品」を好む傾向は、特定の産地の植物に対して集中的な盗掘を呼び起こしてしまい、それを激減状態にしてしまう大きな問題と考えます。同様のことは、今回の「花フェスタ」では確認しませんでしたが、斑入りの「幌尻岳ミネズオウ」にも認められ、実際の生育地ではそれを見かけることは少なくなりました。2に挙げた「屋久島イワキンバイ」も同様の問題を含みます。植物分類学ではなく山草愛好家の詳細な観察によって識別され細分された種内変異は、生物学から別の見方をするならば、「地域個体群」として遺伝的に特異な変異を持っている可能性があります。希少種を守る、すなわち生物多様性を守ることは、「種の多様性」だけではなく、地域個体群に深く関係する「種内の遺伝子の多様性」の保護も対象としますので、それを失うことは大きな問題です。従って、植物の名称については、植物分類学に基づいた正式な名称使用を強く要望します。

B「夕張アズマギク」、「知床スミレ」などのように漢字混じりの名称で表示すると、具体的な場所ら由来したことは明白になり、そこから盗掘したかもしれないとの疑念や、そこが保護地域であるにも関わらず簡単に採取できるのだという安易な誤解を生じさせる問題点を指摘できます。それが園芸上の名称であり、もしも特許が得られている名称であったとしても、上記の観点から、植物分類学に基づいて、和名はカタカナ表記にすべきと考えます。この点を第三の要望とします。

C前項2に挙げた希少植物・高山植物のうち、種の保存法や道条例で指定されていない植物は、大半が「国立公園などの指定植物」や「国有林が保護対象とする高山植物等」に挙げられております。すなわち、ルーツを辿れば、ほとんどが既存法令による保護地域に由来します。従って、希少植物・高山植物の販売・流通に際しては、その問題点が少ない場合でも、各種の法令による指定状況や実際の生育地における激減状態、絶滅寸前状態などの状況に関する情報を人々に十分に与えるべきと考えます。現在、完全に園芸化されない希少野生植物の取り扱いに関しては、少なくとも古くから栽培増殖された栽培品だけを扱い、盗掘品を扱っていない旨を明示すべきと思います。

D長い進化の結果、北海道または本州の高山に限られるようになった固有植物、あるいは氷河期の生き残り(氷期の遺存種)として僅かな地域に隔離的に分布している高山植物、すなわち希少の程度が大きい植物ほど、個人の栽培または販売・流通の対象となるため、盗掘が進行している実態があります。総体的な結論として、上記とは異なって、栽培技術で増殖した栽培品だけを扱う場合であっても、それが現実には、実際の生育地における激減・絶滅と深く関係していることに目を向け、総じて、希少植物の販売自粛など、極めて慎重な対応をしていただきたいと要望します。
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