大規模林道「平取・えりも線」の「静内・三石区間」と「様似・えりも区間」に関して
地元意見聴取を行った期中評価委員会 御中
2003年11月21日
(社)北海道自然保護協会 会長 俵 浩三
大規模林道「平取・えりも線」の「静内・三石区間」と
「様似・えりも区間」に関する意見の補足
当協会は、平成15年10月14日、大規模林道「平取・えりも線」の「静内・三石区間」と「様似・えりも区間」に関する地元意見聴取に際して、「意見書」を提出しその内容を口頭で述べたところである。その際、当協会の意見内容に関して貴委員会委員からの質問があったので、ここに、その質問とそれに対する回答を補足する。貴委員会には、すでに述べた理由とこの意見補足に基づいて、大規模林道事業を止めるなど、慎重な再検討に基づく英断を望む次第である。
.委員会委員の質問内容
 当協会による10月14日の意見書は、2区間の再評価に関する各論を述べる中で自然への影響(Bの4)に関して、「静内・三石区間では環境アセスメントがまったく行なわれていないこと、様似・えりも区間では確認種数の少なさなど、極めて杜撰なアセスメントに終わっていること」を指摘した上で、「当協会の調査によりますと、前者の区間でも多数の希少種を含む多様な生物相が認められ、またアセス報告がある後者の区間では貴庁の報告よりはるかに多数の希少種が認められます」と述べていた。委員の質問は、その具体的な内容を知りたいとの旨であった。
.当協会の回答における基本的考え方
 当協会の回答は、基本的に、前項で触れた「意見書Bの4」において最後に述べた「2区間ともに慎重・綿密な環境アセスメントを行ない、それらの結果を十分な期間にわたって公表して意見を聞き、改めて自然の価値と自然への影響を慎重に評価すべきです」に集約される。また、当協会は、すでに、今年6月19日付けの「整備のあり方検討委員会に対する意見書」と先般の10月14日付けの「意見書」において、「環境アセスメントを路線全体ではなく区間ごとに行なうことは姑息な手段と考えられるほど大きな問題である」旨を指摘してきた。
 従って、当協会は、事業者による慎重・綿密な環境アセスメントが行なわれていない段階では、基本的に、具体的な資料を提示する必要はないと考えている。また、路線全体を対象とした環境アセスメントが先行されるべきと再度、主張したい。それが公表された後であれば、当協会は、具体的な資料でもってその内容を吟味する考えである。事業者による環境アセスメントが先行されない段階において、当協会の調査結果を知りたいという委員の質問は、非常に安易であると判断する。なお、当協会の調査担当者は、当協会の意志に沿った調査であるが、個人的な調査結果でもあるので、何も努力しない「敵に塩を送る」つもりはまったくないと述べている。
 上記の基本的考え方に立った上で、区間ごとに問題点を指摘する。第一に、環境アセスメントがまったく行なわれていない「静内・三石区間」では、環境アセスメント実施が先行すべきである。第二に、「様似・えりも区間」では、平成10年と13年の事業者による環境アセスメント報告書があるので、それらの中で、まったく評価されていない希少種など重大な欠陥について、次項に多少とも詳細に述べる。
.「様似・えりも区間」における植物調査と評価について
 標記区間の環境アセスメント報告書として、1)大規模林業圏開発林道平取・えりも線様似・えりも区間環境アセスメント調査報告書」(平成10年、森林開発公団)と2)大規模林道平取・えりも線様似・えりも区間環境保全調査報告書(平成13年、緑資源公団)がある。これら二つの報告書では、植物に関して@文献による植物目録(和名表記)、Aコドラート調査(植物群落調査)表(和名表記)、B現地調査による植物目録(和名・学名の併記)、ならびにC重要な種等の判断基準から構成されている。@は、えりも町教育委員会編「えりもの植物」に掲載された植物相のまとめ(植物目録)から和名だけを列記したものであり、AとBはそれぞれ、実際に行なわれた植生と植物相に関する調査結果である。これらの報告書には、重大な欠陥が多々認められるが、今回の委員による質問に関連する部分を以下に述べる。
(1) 実際の調査結果であるAとBには、北海道新産植物や道内における希少な新産報告となる植物が8種も挙げられている。これらの植物は、植物学上の新発見であるので、既存法令に基づく希少植物に加えて極めて高く評価されるべきであり、工事をストップしてでも保護を図らなければなならない。すなわち、北海道新産植物や道内における希少な新産報告となる植物は、既存法令によってまだ希少種に挙げられないのが当然であるので、C重要な種等の判断基準に、新たに加えるべきである。
 北海道新産となる植物として、以下の4種類が挙げられる。第一に、ヤマオダマキは、本州以南に分布することが知られており、その報告は北海道新産として貴重である。なお、同植物は、北海道にあるオオヤマオダマキとはその母種として近縁であるので、これらの同定ミスも想定される。第二に、キョウガノコもまた本州に限られた植物であり、北海道新産種となる。同植物については、近縁種エゾノシモツケソウとの同定の間違いも想定される。第三に、ビロードトラノオは、北海道に知られる葉や茎に毛が多いエゾルリトラノオと葉や茎がやや無毛となるヤマルリトラノオと近縁で、以上の3種類ともに同一種内の変種とされている。その中でビロードトラノオは、本州の北陸、奥羽地方に知られており、北海道新産となる。第四に、アズマネザサは、本州の関東以北、東北南部の分布が知られているので、北海道新産種となる。同種に関しては外形的特徴が似るスズタケが同時に報告されているので、それとの同定ミスではないように思われる。
 以上の温帯性植物4種類に関して、日高南部では道南とともに本州とつながる温帯性植物が多数分布するので、科学的に慎重な再確認が必要であり、同定ミスでないと証明されるならば、既述のように高く評価すべきである。従って、何よりも工事を中止して、次年度に再調査が先行されることが必要である。
 他方、道内における希少な新産報告となる植物として、以下の4種類が挙げられる。第一に、イワイヌワラビは、道内では根室管内に隔離的に分布すると記録された温帯性植物であるので、極めて重要な新産報告となる。第二に、トガクシデンダは、北半球の高山に分布する高山植物であるが、道内では高山ではなく石狩・後志地方の石灰岩地などの特殊岩地3ヶ所ほどに極めて希に隔離的に分布している。それ故に、同種は、国内では極めて希少な高山植物とされている。また同種がエゾイタヤ−シナノキ林(低標高地にある冷温帯性落葉広葉樹林)に出現することが報告されているが、このような生育地は、国内・道内、さらに世界を見わたしても異常と思えるほど珍しい事例である。ただし、同種はAに挙げられているが、Bにはリストアップされず、しかも評価の対象にされていない。第三に、エゾキヌタソウは、世界的には高山植物であるが道内では超塩基性岩地などに点在する希少種である。既存文献の@に掲載されていないこと、当協会でも確認していないので調査結果の信頼性が低いと思われるが、同定ミスがなければ重要な新産報告となる。第四に、ケヤリスゲ(サヤスゲ)は、典型的なツンドラ植物・高山植物であり、道内では高山の高層湿原や海岸草原の数ヶ所に極めて希に点在する希少種である。また同種が下部針広混交林(低標高地、山地帯)に出現することが報告されているが、生育地と群落構成種から判断して、そこでの出現は世界的に見ても非常に珍しいケースと考えられる。
 以上の8種類のうち、報告書において価値と影響の評価の対象とされた植物は、エゾキヌタソウとケヤリスゲ(サヤスゲ)2種だけであり、何ら保証がないのに他地域にあるから影響は少ないと結論づけられている。北海道新産植物や道内における希少な新産報告となる植物が評価対象とならないことは、極めて遺憾であり、報告書における環境アセスメントが極めて杜撰であることを証明している。
(2) 二つの報告書では、環境アセスメント報告として、実際に調査したA植生とB植物相の結果だけではなく、既存文献@(平成4年、えりも町教育委員会編集発行「えりもの植物」)による植物目録の和名が掲載されている。自然の価値とそれに対する影響の評価においては、@に挙げられた植物の中から既存法令に基づく希少植物を列記し、AとBに認められない、あるいは出現しても他地域にあるから影響は少ないとする、@を重用した論法と結論づけが行なわれている。
 まず、@の文献は、昭和56(1981)年に発行された初版の増刷であり、平成11(1999)年には「新版えりもの植物」として新たな植物目録が報告されている。従って、平成13年の環境保全調査報告書では、「新版」が使用されるべきであるが、旧版の使用にとどまっている。また、様似・えりも区間はえりも町だけではなく様似町にわたっているので、@の文献だけを比較対象とすることは大きな欠陥となる。さらに、日高南部においては、優秀なアマチュアがまとめた@以外に、著名な植物学者である原寛、舘脇操、高橋誼の諸研究などが多数あるので、同じ論法と結論づけを行なうのであれば、これらとの比較検討が必ず必要である。
 次に、@は、えりも町全域を対象にし長期間にわたった調査結果であるので、@に挙げられた植物が林道工事区間のAとBには認められない、またはAとB以外の他地域にあるから影響が少ないと結論づけるには、以下の問題点が挙げられる。その一は、植物の存在は、基本的には証拠標本に基づいて確認されるが、植物が存在していることは容易に結論づけられても、存在しないと結論づけることは科学的には非常に難しい。その点から、対象地域AやBに@にある希少植物が認められないとの結論は、科学的・論理的に信頼できない。その二は、他地域にあるから影響が少ないと結論づけるには、@と同様にえりも町全域において長期間にわたって調査し、他地域に存続することを保証する科学的証明が必要である。
 さらに、AとBでは、Aに挙げられた植物がBにリストアップされていない、または植物名が相互に異なるなどの多数の欠陥があり、総じて確認種類数が少ない欠陥がある。それ故に報告書を厚めにしようと@の資料を利用したのではないかとの憶測も生じる。さらに、@、AおよびBの間では、植物名の不統一が多く認められ、その理由から、重要な希少植物が影響評価の対象にされない欠陥も認められる。従って、何よりも、綿密な再調査が必要である。これらの報告書が極めて杜撰であるという上記の欠陥は、ここには詳述しないが、当協会への質問ではなく、貴委員会が自ら詳細に確認していただきたいところである。
 以上のように、報告書における自然の価値と影響の評価には根本的な欠陥があり、現在の論法と結論づけを行なう限り、日高南部全体の植物相や植生全体を対象にして、すべての既存文献に目を通し現地を確認しなければならない。そうするならば、既存法令によって検証すべき希少植物であっても、当協会が把握しているように、自ずから、多数あることが理解されるであろう。
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