2003年10月14日
(社)北海道自然保護協会 会長 俵 浩三
大規模林道「平取・えりも線」の「静内・三石区間」と「様似・えりも区間」に関する意見
A.
大規模林道事業の再評価に関する総論
.当協会は、すでに6月19日付で「大規模林道事業の建設予定区間の今後の整備のありかた」に関する意見書を「同あり方検討委員会」に提出しました。その際、事業実施の妥当性及び代替案の可能性について、路線ごとではなく区間別に検討することは大問題であり、路線ごとにその全体にわたって是非を検討すべきことを指摘しました。そのため、今回の地元意見聴取の機会においても、一つの路線を分断して区間別に意見を聴取することには、根本的な疑問が生じます。
.その理由は、先に提出した意見書(配布)に詳しく書きましたが、第一に、大規模林道の見直しは、「莫大な建設費用を必要とする無駄な公共事業」として国の公共事業見直しの一環で行われているからです。
具体的には、
@林道としては異常に大規模な道路規格で、莫大な建設費用を伴って低い進捗率のままにあり、A環境アセスメントの不備が明らかなことから、余りにも多大な自然破壊を伴って、住民生活への多大な影響も危惧され、さらに、B地元移管後の維持管理に関して、地方自治体の財政が疲弊する中で大きな負担を伴うことなど、種々の観点から全国各地で大きな批判を浴びております。今回の事業期中の「再評価」は、それに対して行われているにも関わらず、路線全体ではなく区間別に評価することは、大規模林道事業に対する全体的な批判をかわそうとする姑息な手段と判断します。
.第二の理由として、国有林の方針は、現在、災害防止、水源涵養などの水土保全、また生物多様性保全など、「森林の有する公益機能の重視」に転換されたと承知しております。それに対して、大規模林道事業は、貴庁で重視する「森林の公益機能を大規模に破壊する開発事業」であるため、時代錯誤のものになり、この事業を進めること自体が貴庁の大矛盾と判断します。
.第三の理由として、森林の公益機能を重視している貴庁は、貴庁みずからの開発行為に関する環境アセスメントにおいては、とりわけ緻密な調査とそれに基づく慎重な影響評価が求められます。ところが、貴庁による環境アセスメントにおいても、各種の開発行為における環境アセスメントと同様に、計画された全地域を小地域に分断してアセスメントをしないか、アセスメントをしたとしても極めて杜撰に行ない、工事着工を優先して自然を破壊してきたと判断します。この状況は、林野行政における方針とまったく矛盾する事態です。
B.
2区間の再評価に関する各論
.「平取・えりも線」の「静内・三石区間」と「様似・えりも区間」は、貴庁によりますと、いずれも標高が比較的低い「中間山域」にあり、「事業の必要性」と「自然公園などの保護地域に指定されていないこと」、すなわち事業推進の理由はかなり明確に記述されております。しかし、道路建設時あるいは建設後のデメリットである、土砂崩れや河川流域への影響、地元自治体の大きな財政負担、希少な野生生物や生態系全体への影響な
どのマイナス面についてはほとんど触れられておりません。
.2区間はともに、古い地質から形成され、かつ急峻な地形に特徴づけられます。「静内・三石区間」の地質は、主に先白亜紀ないし白亜紀の堆積岩(砂岩、けつ岩、れき岩)から構成され、先般、大崩壊事故があった道道静内中札内線と同様に、脆く急峻な地形を形成する特徴があります。また、「様似・えりも区間」の地質は、同様に先白亜紀から白亜紀にかけて生じた火成岩(はんれい岩など)や変成岩(ホルンフェルス、ミグマタイト、片麻岩など)からなり、急峻な地形を形成します。
急峻な地形によって、道路建設は、道路の両側に広面積の法面を造ることになりますが、それは土砂崩れや地滑りのような災害の原因となりやすく、流域生態系として下流域の生活圏に大きな影響を与えることが予測されます。貴庁において、両区間の大半をすでに「水土保全林」に指定していることは、みずから銘記すべきです。そこで既存林道を使用した多少の林業行為が行われたとしても、それは大規模な車道、大規模林道の建設とは環境に与える影響は全く異なると考えます。
流域生態系への土砂流入など、住民生活への直接的な影響を引き起こす道路建設中あるいは建設後の自然への影響は、科学的に十分に調査すべきです。地元に移管後、災害復旧や除雪などに関する地方自治体の費用負担についても、それらの予測を明らかにすべきです。
.国内において、近年、標高が低い「里山」の自然と生物多様性が極めて重要であると強く認識されております。そうした中で、北海道の里山は、本州以南と比べますと、いずれも「山間の住民数が非常に少なく、植生自然度がはるかに高い特徴」があり、とくに2区間を含む「平取・えりも線」は、原始性が非常に高い日本最大の国定公園、「日高山脈襟裳国定公園」を背後に連続させる広大な森林地域を縦断します。大規模林道の建設工事は、既存林道とはまったく異なって、とりわけ急峻な地形からなる地域では、車道幅員と法面を合わせた直接的工事部分だけで幅300mを超える場合が生じますので、両区間ともに、大規模な道路規格が野生動植物に与える影響は多大であり、動物の移動障害や侵入生物の問題が生じると予測します。
.自然への影響について、区間によって北海道環境影響評価条例と環境影響評価法に基づく環境アセスメントの必要性や、レッドデータブックに希少野生動植物として掲載されたナキウサギやクマゲラの生息ならびに希少猛禽類の生息可能性が触れられております。しかし、環境アセスメントは「静内・三石区間」ではまったく行なわれず、「様似・えりも区間」では確認種数の少なさなど、極めて杜撰なアセスメントに終わっております。
当協会の調査によりますと、前者の区間でも多数の希少種を含む多様な生物相が認められ、またアセス報告がある後者の区間では貴庁の報告よりはるかに多数の希少種が認められます。貴庁でたとえ「資源の循環利用林」として保全上は低く位置づけたとしても、2区間周辺の自然は非常に重要と判断しますので、十分な環境アセスメントが必要と考えす。
林野庁みずからの方針である、生物多様性の保全を含む「森林の公益機能重視」に合わせますと、2区間ともに慎重・綿密な環境アセスメントを行ない、それらの結果を十分な期間にわたって公表して意見を聞き、改めて自然の価値と自然への影響を慎重に評価すべきです。
.「様似・えりも区間」では、事業の必要性として「交通ネットワークの形成に寄与すること」が強調されております。しかし、それは大規模林道建設が始まった当初、決して主目的ではありませんでした。林業発展を主目的とした当初と比べますと、現在は、大規模林道という「車道建設そのものが目的化した」と判断します。しかしながら、莫大の予算を使う大規模林道は、災害時の迂回路という考え方もあるかもしれませんが、一般の国道や道道と異なって、災害時には真っ先に不通になるような疑念が生じます。道路の「必要性」、「目的」および「効果」について大きな疑念が生じます。再評価では、慎重な評価が必要と考えます。
3. 結論
 現段階でも、大規模林道事業に対する全国的な批判点が、2区間ともに明らかに認められますので、事業中止が最良の判断であると確信しております。
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